アムステルダムを離れた僕が次に向かった地はドイツ・デュッセルドルフだった。
ドイツの西側に位置するデュッセルドルフはアムステルダムからバスで4時間ほどと非常にアクセスが良く、ドイツ旅を始めるうえで絶好の都市であると感じた。
一方で僕はドイツへと移動に関して若干の不安を抱いていた。
というのもドイツが9/5から日本を「コロナウィルスハイリスク国」に指定したからだ。
詳細を確認すると、入国前10日以内にハイリスク国に滞在していることが発覚した場合、自己隔離が必要とのことだった。
僕自身も渡航前から再三再四情報を確認し続けていたが、僕が空の世界に隔離されていた間に発表がなされてしまった。
僕の旅はオランダで終了してしまうのか。まだ始まって3日も経ていないのに。
オランダの雲ひとつない青空とは対照的に僕の旅に一群の暗雲の立ち込み始めた。
まあどうなったて良いだろ。突飛なことは全てブログに書いてしまえばいい。
「不安に駆られても何の意味も無い。予約は取ったのでとりあえずバスに乗ろう。」
僕は悪を引き起こそうと奔走する自らの思考を放棄し、足早にバスに乗り込んだ。
バスはロッテルダムやらネイメーヘンやら様々なオランダの都市を寄りながら、様々な不安で揺れ動く僕の思考のように曲線的な線を描いて進んでいった。
そして迫る国境線。
ここで降ろされたら”旅”が始まるな。
僕は不安と一抹のワクワク感を抱え、バスに揺られていた
そんな僕の焦燥をよそにバスは何者にも遮られることなくあっさりと国境線を突破した。
僕に起きた変化といえば、オランダで買ったsimカードが全く繋がらなくなったぐらいであった。
バス停に何かがあるのか。国境線を超え、安心した東洋人を絶望の淵に叩き落とす何かが。
僕の疑心は大いに膨らみを続けていたが、バスもまた決められた道順をひたすらに走り続け、ついにデュッセルドルフに到着した。
停留所が数個置かれただけのバス停に到着すると、バスのドアが一斉に開放された。人々は我先にと荷物を背負い素早くバスを降り、各方向に散っていった。
そこに待っているものは何もなかった。
何かが待っていると勝手に妄信していた僕は呆気にとられた。
人間は得てして予期せぬ自由に弱い。
僕はデュッセルドルフに着いてからのことをほとんど想定していなかった。
人々に押されひとまずバスを出た僕ができることは限られていた。
宿の名前は? 所在地は? 腹減ったな飯は?
僕は適当に街を歩きながら、一旦フリーズした脳を再活動させ、次の行程を考えた。
しかし何か物事を考えるには僕の脳は疲弊し過ぎていたし、どこかへ足を延ばすには僕の腹は減りすぎていた。
幸いなことにバス停は食事処も多い市の中心にあった。
ただ適当に歩くだけで様々な食事処が僕の目に飛び込んでくる
その中で僕の目を最も引いた食べ物があった。
ケバブ
そうかつて僕が漢のロマンを追い求め作り上げた食事。
あの時も全く焼けることのないケバブ肉を見て呆気にとられていたものだった。
肉だ。デカい肉は全てを解決する。
例のごとくこのレストランにも巨大なケバブ肉が鎮座していた。
僕は迷わずケバブサンドを注文した。
これまた例のごとくトルコ系の従業員は慣れた手付きで肉を切り、野菜などと共にパンへぶち込んだ。
そして例に外れた無茶苦茶なサイズのケバブサンドが僕の前に現れた。
デカい。異常にデカい。もはやサンドできていない。呆気にとられた思考を取り戻すために食べるケバブを見て僕は再び呆気にとられてしまった。
もう呆気にとられている暇はないんだ。目の前に飯があったらやることは一つ。
食う。
僕は服や顔が汚れるハイリスクを恐れずにひたすらかぶりついた。
旨い 旨い。
僕の脳腹へ急速にエネルギーが溜まっていった。
そうだ僕はドイツに入国したんだ。
もう僕は自由の身なんだ。
エネルギーを取り戻した僕の脳はあらゆる事実を素早く処理した。
瞬く間にケバブを平らげた僕は足早に宿へと向かった。
ドイツ旅はまだ始まったばかりだ。続く