――サウナはいつだって人生の大切なことを僕たちに教えてくれる――
僕は以前本ブログにてサウナ素人の意地とプライドをかけ、サウナの魅力を熱く語った。
この記事以降も冷めることなく、世界湯サウナほどの温度を維持した僕のサウナ熱は、僕を地元サウナ開拓へ走らせた。
街銭湯中の街銭湯「松の湯」から最新の設備がととのった「かるまる」まで
この世には開拓がいのあるサウナが至るところに溢れている。
#アナル開拓よりサウナ開拓
そんな大サウナ時代真っ只中の我が国日本に恍惚と輝き続けるサウナがある。
「ウェルビー栄」
日本のみならず、世界各地のサウナファンが愛してやまない「サウナの聖地」。
特に「日本一冷たい」と称される水風呂は関東一冷たい「かるまる」の水風呂をも下回る3℃。

サウナ開拓を志す者として必ず開拓せねばならないサウナに違いない。
このサウナに行かずしてサウナ開拓趣味を名乗るのは、指一本しか入らないのにアナル開拓趣味を名乗るようなものだ。
僕は「ウェルビー栄」開拓を決めた。
大寒波吹き荒れる12月某日
僕はあえて睡眠の取れないであろう夜行バスに乗り込み「ウェルビー栄」のある名古屋へ向かった。
移動自粛要請なんてどこ吹く風。社内は満員御礼。老若男女で溢れかえっていた。
さしたる観光地もない名古屋になぜこれほどまでの人々が苦しい思いをして夜行バスに乗り込むのか。
夜行バスの到着予定は朝6:00。この時間では名古屋自慢のグルメショップたちも目覚めていない。
そうなると答えは一つ 「ウェルビー栄」だ。
ここの乗客たちはみな早朝から空いている「ウェルビー栄」を堪能し、夜行バスでの不眠を補う快眠を果たすのだろう。
恐るべしサウナ熱。
やはり大サウナ時代到来は間違いではなかった。
夜行バスに揺られること約6時間。
僕たちを載せたバスは予定通り、名古屋駅近郊に到着した。
極寒の早朝名古屋に降ろされた乗客たちは熱を求め、ものの数分で「ウェルビー栄」方面へと消えていった。
サウナを求める人々のあまりのスピードについていけず、一人バス停に取り残されてしまった僕も一流サウナ通のアラタと何とか合流し、「ウェルビー栄」への歩みを踏み始めた。
三流名古屋メシ「なか卯」での休憩も挟んで歩くこと30分、聖地「ウェルビー栄」が姿を表した。

ビジネスホテル風の3階建てビル。
外観だけでいえば「聖地」には程遠い。
しかしサウナは見た目だけで決まらないことは小綺麗な外観にも関わらず、ハッテン場に成り下がった某マー湯が教えてくれた。
きっとこの「ウェルビー栄」には僕たちを驚かせてくれる「聖地」があるのだろう。
僕たちは期待に胸を膨らませて、「ウェルビー栄」に入店した。
受付を済ませ、すぐさま脱衣場へ。
男性専用にも関わらず、頻繁に脱衣場を往復する若女性店員にイチモツを見られつつ、足早に着替えを終え、浴場へ向かった。
浴場の広さは松の湯約3個ぶんほどとそれほど広くはなかったが、内湯1つにサウナ2つ、水風呂3つというこだわりのインテリア。
流石は「聖地」。ここはあくまでサウナを楽しむための場所だという主張がビンビンに伝わってくる。
そしてお目当ての「日本一冷たい水風呂」。
浴場奥に佇む2重扉の先に厳重に閉ざされ、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「これからここに入るのか」
僕は先ほどまでの期待が不安に変わるのを感じつつ、穢れた身体をシャワーで流した。
落ち着け。どんなサウナであってもやることは変わらない。
水風呂に入る前にはまず体を限界まで火照らせる。
「ウェルビー栄」には高温サウナと森のサウナという二種類のサウナがあった。
一流サウナ通アラタの「森はぬるい」というビックマウスもあり、僕たちは95℃のサウナに火照ることになった。
熱い!
冷静に考えればサウナ開拓にはまっていたのは主に11月。最後にサウナに入ったのも11月末、準備不足は自明の理であった。
僕はものの6分ほどで限界に達し、まだ火照りたげなアラタと共にサウナから出た。
”どんなサウナであってもやることは変わらない”
サウナで火照った後に待っているイベントはただ1つだ。
僕たちは高揚と不安に苛まれながらゆっくりと歩みを進めた。
待ち構える異質な2重扉。
サウナでの実力を証明し、自信ありげに先頭に立ったアラタが扉を開けていく。
寒い!
アラタが2枚目の扉を開けた瞬間、凄まじい冷気が僕たちを襲った。
一説にはマグロ冷凍庫と同じ冷凍設備を使用しているらしいというこの水風呂。
流石は「日本一」期待を裏切らない。
あまりの冷気に畏れをなしたアラタは先ほどまでの自信が嘘のように、後ろへと下がった。
消去方的に先頭に躍り出た僕はこのまま戻る訳にもいかず、水風呂に足を踏み入れた。
その瞬間待っていたのは寒さでも、冷たさでもない。
痛みだ。
体の悲鳴がこもった痛み。
ルーティンを果たすために、痛みをこらえ肩まで水に浸かるとその痛みは全身に広がった。
身の危険を感じた僕たちは時間を数える間もなく、凍った手すりをつかみ、我先にと水風呂から飛び出した。
なんだあの水風呂は
サウナでじっくり限界まで火照らせた僕の体はたった数秒の水風呂で「冷」へと変わった。
恐るべし「ウェルビー栄」
僕たちの高い期待を大きく上回った。
しかし本当に恐ろしいのは水風呂だけではなかった。
どんなサウナであってもやることは変わらない。それがたとえ日本一の水風呂を前にしていても。
僕たちは先ほどあれだけ恐ろしい体験をしたのにも関わらず、すぐさま2セット目のサウナへと向かった。
水風呂がどれだけ冷たかろうが、1セットで終わることはできない。
真に恐ろしきサウナ開拓者の性だ。
その後も僕たちはサウナ→水風呂のルーティンを繰り返した。
次第にサウナの熱さには僕も慣れ、8分~10分の間耐久できるようになった。
一方で水風呂の痛みには最後まで慣れることができず、せいぜい10秒浸かるのが限界点であった。
この10分じっくり火照り、10秒一瞬で冷えるというルーティン。
どこかで経験したことがあるのではないか。
その「どこか」が何なのか。サウナ耐久中の回らない僕の脳ミソは常々この疑問に振り回されていた。
今ならはっきり言える。
このルーティンは人生そのものだ。
「積み上げるのは難しい、崩れるのは一瞬」
温かい関係を作るのには時間がかかるが、温かい関係は些細なことで一瞬にして冷え込む。
しかし「ウェルビー栄」が真にサウナと水風呂を通じて伝えたいことはこれだけではない。
冷え込んだ関係も時間をかけて温めれば最後に必ずととのう。
サウナはいつだって僕たちに人生で大切なことを教えてくれる。
「ウェルビー栄」はまさに「聖地」にふさわしいサウナであった。