「ドキュメンタリー」カテゴリーアーカイブ

フランクフルトで僕のフランクフルトは暴発した

「I’m com………」

この続きを言い遂げることはなかった。

2021/9/10

ケルンでの思わぬ出合いによって旅の不確実性を改めて痛感した僕は再び確実性を求め、予定通り次なる目的地であるフランクフルトにやって来た。

フランクフルトでフランクフルトを食う。

フランクフルトという地名を知った日本人が誰もは一度は思い浮かんでしまう陳腐なダジャレ。

しかしそんな古く腐ったダジャレだって時には大いに役立つことだってある。

僕が海外への旅に興味を持ったきっかけの一つは中文コースで知ったあるダジャレだった。

カタールで語る

いま思い返してみると全く面白くない言葉の羅列であるが、このダジャレが流行った大学2年時は「カタールで語るって何だよ」とゲラゲラ笑いこけていた。

そして笑っているうちに僕たちは「いつかカタールに行って本気で語ろう」と誓った。

某じょん怒涛の投稿

地名にまつわるダジャレを実現するためだけに海外に飛ぶ。

たった一瞬のダジャレに懸ける想いの強さに僕は強い感銘を受けた。

その時以降、僕の人生の楽しみの一つに海外にまつわるダジャレを実現するというものが加わった。

ついに訪れたフランクフルト。

願い焦がれたカタールではないが、この地もまたダジャレにふさわしい街であるに違いない。

フランクフルトに到着した僕は駅前に並んだ屋台で早速フランクフルトを購入し、フランクフルト中央駅で食した。

3ユーロ(1ユーロは130円)

フランクフルトの中心で食べたフランクフルトはいつにもまして美味な気がした。

こうして僕は長年の夢であったダジャレ再現をあっさりと達成した。

いやまだ達成していない。

フランクフルトは食べるだけじゃない。

健康な大和男児として生まれた僕は立派なフランクフルトを持っている。

このフランクフルトという地でこいつをフルスイングしないでどうする。

今見せろ お前の底力を 突き進め 勝利を掴み取れ

フランクフルトでフランクフルトを振る。

僕のフランクフルト旅が始まりを告げた。

予定では僕はフランクフルトに2日間滞在することになっていた。

とはいえ僕は既にフランクフルトで果たしたい2つの目的のうち1つを終えている。

フルスイングを見せるならやはり最終日の夜がふさわしい。

となれば僕に必要なことは1つ

鍛錬

ミスターフルスイングこと小笠原道大氏は結果を残すうえで必要なことを下記のように語っている

目の前のことをしっかり、一瞬、一瞬のプレーに気を抜かずにやる。そうすれば自ずと光は見えてくる

勝負のかかる場面で全身全霊のフルスイングを見せるためには日頃の鍛錬が欠かせないのだ。

僕はこのガッツ溢れる和製大砲の教えに習い、残りの2日間を自らの鍛錬に当てることに決めた。

ブログの更新やイギリス入国申請フォームの作成といった目の前の課題を確実に消化することによって心理面での充実を図る鍛錬。

8人部屋という劣悪な環境の中でも人がいなくっなった瞬間を逃さずに素振りをするといった技術面の鍛錬。

10時に寝て7時に起きる、3食必ず肉を食べるといった健全な生活による肉体面の充実を図る鍛錬。

以上のような「心技体」全ての強化を狙った鍛錬を僕は果たした。

そして運命の時がやって来た。

9/10 pm 19:00

心身ともに充足した僕は己の中の漢を滾らせつつ、地下鉄に乗り込み、決戦の地 エフ・カー・カーパレスドーム へ向かった。

しかしここで思わぬハプニングが発生してしまう。

パレスドーム最寄りの駅を降りるとまるでまさかの豪雨。

大粒の雨に苛まれた人々は着の身着の儘で駅構内に次々と駆け込む。

最寄りとはいえ駅からパレスドームまでは歩いて20分。

この豪雨で移動すれば、心理面の動揺は避けられないだろう。

僕は充足した思考力をフル回転させ、突然振り始めたという点とにわか雨の可能性ありという天気予報を考慮し、この雨はすぐに止むので駅で待つべしという結論を導き出した。

天気的中 海谷采配 冴えわたる 

僕の見立ての通り、ものの10分ほどで雨は小康状態となり、駅構内へ逃げ込んだ人々もそれぞれの目的地へと旅立っていった。

今日は冴えてるぞ。

心技体の充足に加えて第六感の覚醒。

僕はこの先に待っている素晴らしい未来を予感しないにはいられなかった。

そして旅立つ人々と共に、中断を経た僕も再び決戦の地への歩みを進め始めた。

時節 巨大な水溜りに悪戦苦闘しながらも歩くこと20分。ついにエフ・カー・カーパレスドームが僕の前に現れた。

煌めく鮮やかな桃色光線、次々とドームへ吸い込まれていく熱く燃える漢たち。

どれもこの地が漢たちの戦場であることを強く示していた。

僕も今日はその勇猛な戦士の1人だ。

見せつけてやれパワフルスイング。

僕は覚悟を決め、パレスドームの門をくぐった

受付には今後の楽園を予感させる妙に落ち着いた老人と漢たちの戦いを支える現金自動預け払い機が置かれていた。

僕は昨日取得した陰性証明と75ユーロを提出し、タオルと館内着を受け取り、受付を終えた。

受付を終え、奥に進むと右側に簡易な仕切りを挟んで異常な桃色光線を発する空間が存在しているのか分かった。

あそこか

自らの戦いの地を察した僕は右側とは対照的な白熱電球の灯るロッカールームへ向かった。

妙な心臓の高まりが僕を襲っていた。

着換え、シャワー、歯磨き。

これまで人生で何千回、何万回と繰り返してきた動作のはずなのに今日は何だかスムーズにいかない。

ロッカーに入れるはずの物を入れ忘れたり、2回シャンプーをしてしまうといった初歩的なミスが止まらない。

これが戦場に向かう漢たちにやってくる緊張か。

僕は自らが強いプレッシャーに晒されていることを実感した。

こうして僕は通常よりも長い時間をかけて一連の準備を終えた。

次に待っているのはもうあの空間だけだ。

僕は速まり続ける心臓の鼓動を感じつつも、何も感じていないような素振りでスタスタと桃色空間へ足を踏み入れた。

チンコ!マンコ!

緊張の面持ちを隠しきれない僕のもとに開口一番痛烈な打球が襲った。

思わず打球の方向を見るとそこには下着一枚の金髪美女がバーカウンターに腰掛け、手招きをしていた。

流石はパレスドーム。やってくれるじゃないか。

僕は思わぬ先制パンチに驚きつつも、この場所が自らの期待に合った場所であることを実感した。

桃色空間はバーテンダーを中心に円上にカウンターが並んだ洒落たバーといっても差し支えない場所であった。

ある一点を除けば。

その一点はもちろん女性たちの存在だ。

彼女たちは下着一枚の状態でバーカウンターに陣取り会話に興じていた。

まずは観察から。

ひとまず僕はバーカウンターを1週し、どのような女性が存在しているのか確認した。

カウンターに座る女性はみな白人で、光輝く肌を持った方から深い皺が刻み込まれた方まで幅広い年代の方が存在していた。

彼女らは一見何の気もないようにカウンターに座り、酒を嗜み、お喋りに興じているが、僕が近くを通ると途端に目の色を変え、愛想の良い挨拶をよこした。

漢としての決意を固め、入店したはずの僕であったが、白人美女に愛想を振りまかれ続けるという人生初イベントにすっかり怯みきり、挨拶を返すだけで精一杯になってしまった。

このままではフルスイングどころではない。

僕には精神をととのえる必要があった。

僕はバーカウンターの奥にあったサウナに向かい、再び漢としての準備を行うことにした。

どうしたんだ海谷 何のためのエフカーカーなんだ。

僕はアチスなサウナに入りつつ自らに問いかけた。

僕はこのフランクフルトという地で自らのフランクフルトをフルスイングする。

目標は単純明快だ。

怯んでる場合じゃないんだ。

GO海谷 全力で走れ GO海谷 全力で飛ばせ

僕は漢としての魂を奮い立たせ、再びあのバーカウンターへ全力で帰った。

そして今度は1人の女性の手をとった。

彼女はアレクサと名乗った。

ミラ・ジョボヴィッチ風の長身白人美女であった彼女は僕が日本人であることが分かると、例のごとく「チンコ! マンコ!」と語りかけ、「元彼は日本人だった」という嘘か真か分からない話を披露した。

そして僕の手をとり、「サイエンスムービーを観よう」と言って小さなシアタールームに案内した。

シアタールームには男女が生命を作り出すために行う活動を撮ったサイエンスムービーが流れていた。

彼女と僕は部屋の隅に座り、年齢や職業といった風俗風会話を始めた。

そして会話が終わりに差し掛かると彼女は徐々に僕の下半身に手を伸ばした。

僕のバットは立ち上がった。

僕もやはり漢だったんだ。

彼女は僕の構えが出来たことを確認すると、再び僕の手をとり、今度はバッターボックスがあるだけの個室に案内し、鍵をかけた。

お膳立ては整った。後は役目を果たすだけ。

僕は料金の確認を手短に済ませ、バッターボックスで大の字に構えた。

彼女は自らの手と口でバットの最終調整を行った。

そして僕は彼女の中を捉えた。

彼女の激しい腰の振りから繰り出される直球に僕のバットは開始早々既に粉砕寸前であった。

ヤバい。このままでは

僕は自らのバットの耐久力を考慮し、力まかせにフルスイングした。

やみくもに振ること数回。

あの感覚が僕を襲った。

「im com…! Ahh…」

僕は暴発した。

僕の渾身のフルスイングを見届けた彼女はこれまでの親しげな態度が嘘のように淡々とした様子で後処理を済ませた。

僕は先月某りんと熊本に行った際に彼が風俗店で暴発した話を思い出した。

あの時 僕は「暴発? 情けないなぁ」と彼を笑っていた。

しかし 今はどうだろう。

暴発を馬鹿にしていた僕がいとも簡単に暴発したのだ。

情けない。情けない気持ちでいっぱいだ。

僕はフルスイングを果たした喜びよりも暴発してしまった悲しみにうなだれていた。

僕は早く漏れてしまう人間なんだ。

ここにきて僕は自らの性質を再確認することになった。

そして僕の財布から50ユーロが消えた。


ドイツ・デュッセルドルフ 〜入国審査と巨大ケバブ〜

アムステルダムを離れた僕が次に向かった地はドイツ・デュッセルドルフだった。

ドイツの西側に位置するデュッセルドルフはアムステルダムからバスで4時間ほどと非常にアクセスが良く、ドイツ旅を始めるうえで絶好の都市であると感じた。

一方で僕はドイツへと移動に関して若干の不安を抱いていた。

というのもドイツが9/5から日本を「コロナウィルスハイリスク国」に指定したからだ。

詳細を確認すると、入国前10日以内にハイリスク国に滞在していることが発覚した場合、自己隔離が必要とのことだった。

僕自身も渡航前から再三再四情報を確認し続けていたが、僕が空の世界に隔離されていた間に発表がなされてしまった。

僕の旅はオランダで終了してしまうのか。まだ始まって3日も経ていないのに。

オランダの雲ひとつない青空とは対照的に僕の旅に一群の暗雲の立ち込み始めた。

まあどうなったて良いだろ。突飛なことは全てブログに書いてしまえばいい。

「不安に駆られても何の意味も無い。予約は取ったのでとりあえずバスに乗ろう。」

僕は悪を引き起こそうと奔走する自らの思考を放棄し、足早にバスに乗り込んだ。

バスはロッテルダムやらネイメーヘンやら様々なオランダの都市を寄りながら、様々な不安で揺れ動く僕の思考のように曲線的な線を描いて進んでいった。

そして迫る国境線。

ここで降ろされたら”旅”が始まるな。

僕は不安と一抹のワクワク感を抱え、バスに揺られていた

そんな僕の焦燥をよそにバスは何者にも遮られることなくあっさりと国境線を突破した。

僕に起きた変化といえば、オランダで買ったsimカードが全く繋がらなくなったぐらいであった。

バス停に何かがあるのか。国境線を超え、安心した東洋人を絶望の淵に叩き落とす何かが。

僕の疑心は大いに膨らみを続けていたが、バスもまた決められた道順をひたすらに走り続け、ついにデュッセルドルフに到着した。

停留所が数個置かれただけのバス停に到着すると、バスのドアが一斉に開放された。人々は我先にと荷物を背負い素早くバスを降り、各方向に散っていった。

そこに待っているものは何もなかった。

何かが待っていると勝手に妄信していた僕は呆気にとられた。

人間は得てして予期せぬ自由に弱い。

僕はデュッセルドルフに着いてからのことをほとんど想定していなかった。

人々に押されひとまずバスを出た僕ができることは限られていた。

宿の名前は? 所在地は? 腹減ったな飯は?

僕は適当に街を歩きながら、一旦フリーズした脳を再活動させ、次の行程を考えた。

しかし何か物事を考えるには僕の脳は疲弊し過ぎていたし、どこかへ足を延ばすには僕の腹は減りすぎていた。

幸いなことにバス停は食事処も多い市の中心にあった。

ただ適当に歩くだけで様々な食事処が僕の目に飛び込んでくる

その中で僕の目を最も引いた食べ物があった。

ケバブ

そうかつて僕が漢のロマンを追い求め作り上げた食事

あの時も全く焼けることのないケバブ肉を見て呆気にとられていたものだった。

肉だ。デカい肉は全てを解決する。

例のごとくこのレストランにも巨大なケバブ肉が鎮座していた。

僕は迷わずケバブサンドを注文した。

これまた例のごとくトルコ系の従業員は慣れた手付きで肉を切り、野菜などと共にパンへぶち込んだ。

そして例に外れた無茶苦茶なサイズのケバブサンドが僕の前に現れた。

3.5ユーロ(440円)異常に安い

デカい。異常にデカい。もはやサンドできていない。呆気にとられた思考を取り戻すために食べるケバブを見て僕は再び呆気にとられてしまった。

もう呆気にとられている暇はないんだ。目の前に飯があったらやることは一つ。

食う。

僕は服や顔が汚れるハイリスクを恐れずにひたすらかぶりついた。

旨い 旨い。

僕の脳腹へ急速にエネルギーが溜まっていった。

そうだ僕はドイツに入国したんだ。

もう僕は自由の身なんだ。

エネルギーを取り戻した僕の脳はあらゆる事実を素早く処理した。

瞬く間にケバブを平らげた僕は足早に宿へと向かった。

ドイツ旅はまだ始まったばかりだ。続く

快楽と開放の街アムステルダムpart2 人生を謳歌する人々の姿に感動

前回に引き続きヨーロッパ旅について語っていこうと思う。

日本で感じた閉塞感を打破するために僕は最初にオランダを渡航先に選んだ。

売春や大麻が合法であり快楽主義、開放主義的な雰囲気を持ち合わせるオランダは僕の閉塞感を打破するにはうってつけの場所のように思えた。

オランダまでの総移動時間は約1日。これまでの最長渡航時間がタイに行った際の6時間だった僕にとって途方もない移動時間だ。

開放という真逆の価値観を手にするにはそれだけ長い距離を動かなくてはならないのだ。

僕は若干衰えを感じる23歳の体に鞭を打ち、飛行機に乗り込んだ。

「これからオランダに行くのか」

正直なところ僕は全く実感がなかった。

ほんの2日前までは副反応で1日中寝込んでいたし、今日という一日も飛行機に乗るという行為を除いて特に変わりはなかった。

いつもと変わらず飯を食い、映画を見て、ゴロゴロする。記憶に残らない一日であるはずだった。

ただ僕は空港に向かい飛行鉄塊に乗っただけなんだ

そんな僕の感覚などお構いなしに飛行機はひたすらに目的地へと進み続けた。

実感などなくても飛行鉄塊にさえ乗ってしまえば目的地にたどり着いてしまうのが現代の性のようだ。

家から成田空港まで2時間半、成田空港からドバイ国際空港まで10時間、3時間の接続を挟み、オランダ・アムステルダムまで7時間。

出発から22時間と30分。実感0の僕はアムステルダムに降り立ってしまった。

他の乗客に押し出されるがままに飛行機を降り、暗黙の流れに従い、入国ゲートにたどり着く。

入国ゲート前に長い蛇の如く列をなした人々の姿は僕にほんの少しだけ旅の実感を与えた。

そしてこの入国ゲートは僕に与えたものは旅の実感だけではなかった。

大蛇のような見た目に反して入国ゲートは素早い回転を発揮し、ものの数分で僕の番がやってきた。

僕はパスポートと入国前に大金をはたいて獲得した陰性証明を準備した。

だがしかし、入国管理官が要求したのはパスポートのみだった。彼らは僕の顔とパスポートの顔が一致していることを確認すると、適当にスタンプを押し、入国審査を終了した。

オランダ政府のHPには陰性証明が必要と書いてあったが…

世の中 ネットの情報だけではわからないことがまだまだたくさんあるようだ。

なにはともあれ流石は開放の国オランダ。どんな奴らにもとりあえず国境は開放、面倒な証明作業の仕事から入国管理官も開放。

入国早々開放のワンツーを決められた僕は異国の地に降り立ったという実感を否応なく獲得することになった。

しかしこの程度の開放は開放大国オランダにとってほんの序の口でしかなかった。

あっという間の入国審査を終えた僕は地下鉄塊に乗り文字通りアムステルダムの中心であるアムステルダム中央駅に向かった。

地図を見るとよく分かるがアムステルダムはアムステルダム中央駅を起点として巨大な歓楽街が広がっている。

開放といえば歓楽街という安く直球な考えで僕はアムステルダム中央駅周辺に宿をとっていた。

こうした僕の考えとは真逆な高く曲がりくねった地下鉄塊に乗ること20分。ついに開放の中心アムステルダム中央駅に到着した。

そこにあった光景は僕の期待を遥かに上回るものであった。

雲ひとつない快晴。美しく荘厳な建築物。マスクもつけずに街を楽しむ人々。

これだよ。これが欲しかったんだよ。

僕が日本で感じた閉塞感を木っ端微塵に破壊する環境がアムステルダムにはあった。

その中でも特にこの街の人々の振る舞いには大いに考えさせられるものがあった。

ある者は酒を飲み、ある者は大麻を吸い、ある者は性に溺れる。

街の人々はコロナはただの風邪といわんばかりに、それぞれやりたいことをやって人生を謳歌しているように見えた。

#全国民平塚正幸

日本とオランダにおけるコロナ感染者比率はそう大差はない。

医療を守るために延々と自粛を続ける日本、コロナなど忘れて人生を謳歌するオランダ。

どちらが良い対応なのかを決めるのは難しいが、少なくとも世界には様々な考え方があるということだ。

#あたりまえ

郷に入れば郷に従え。

この自由闊達な雰囲気を求めてオランダに訪れていた僕はそう自分を納得させ、自らの快楽の赴くままに行動することにした。

食いたいもんを食い、

日本のコロッケの元となった料理らしい

いきたい所にいき、

眠い時に寝る。

幸せだ。今までの閉塞感が嘘のように僕はオランダを満喫した。

そして開放・快楽主義に溺れ続けたオランダ旅も最終日をむかえた。この日 僕はオランダの開放・快楽主義の真髄を見せつけられることとなる。

続く

快楽と開放の街アムステルダムpart1 〜開放を求めて〜

2021年8月 僕は強い閉塞感を抱いていた。

長く険しい就職活動が終わりを告げてからというもの、僕はウメハラらと共に中文というコミュニティを盛り上げるために奔走した。

飲み会、高尾山、流しそうめん 思いついたアイデアは何でも実行に移した。の

奔走の成果もあり、ほんの1年前まで荒廃し閑散しきっていた中文コースには多くのニュー・カマー達が集まり、従来では想像できないほどの活気が戻りつつあった。

しかし楽しい日々はそう長くは続かないのが世の常というものである。

例にもごとく中文コースはコース集まりの弱点でもある夏休み突入による集合口実の減少によって急速に集合率が悪化し、下火となっていった。

中文歴5年の僕にもなればこの流れが起きることは想定の範囲内だった。夏休みに「みんなで」「大勢で」なんて楽しみを期待してはならないのだ。

集まりの減少を見越して、僕は夏休みに関していくつかの予定を立てていた。

予定調和を愛するな。

某編集者がかつて声高に主張していた言葉だ。

その編集者を初めて知った時は僕も彼の世間の常識を打ち破る姿に感銘を受け、バカの一つ覚えのごとく「予定調和を愛するな」と吹聴し続けていた。

実際に今夏の予定調和は見事に崩れた。

夏の一番天気が良いタイミングだろうと見越して予定を立てた無人島サバイバル企画は季節外れの長雨により無念の延期となった。

8月のうちにできるだけ稼ぐという目論見もお盆中の発熱により志し半ばでの中断を余儀なくされた。

いざ予定調和が崩れた時に僕を襲った感情は喜びではなかった。

そこにあったのは閉塞感、端的に言えばシブさそのものだった。

店はやってない、長雨ばかり、自粛ムード

シブい。冷静にシブい。いつから日本はこんなシブい国になってしまったのか。日本に来た留学生が口を揃えて「日本は楽しい」と語っていたあの国はどこへいってしまったのか。

ぶつけようのない怒りとやり切れない閉塞感が僕を襲った。

そんな時にふと目に移ったのはイギリスのサッカーリーグでマスクもつけずに騒ぎ叫ぶ人々の姿だった。

彼らは自粛だとか医療崩壊だとか何も考えずに自分のしたいことを思う存分楽しんでいた。

欲しい。いま僕が欲しいのはこの環境なんだ。

彼らの本能に従って人生を謳歌する姿は僕の欧州旅行への士気を大いに高めた。

この閉塞感を打破するには環境を変えるしかない。

日本がダメならヨーロッパだ。

世界は広いんだ。自粛を愛する日本に留まり続ける必要はないんだ。

僕の閉塞感は少しづつ開放の瞬間を待っていた。

そして9月某日。ついに待ちに待った渡航の日がやってきた。

続く

2年の月日で変わったのと変わらないもの

6月某日 都内近郊某大学説明会にて

「困っている学生を助けることができるのが大学職員の一番の魅力です。」

彼は親の敵のごとく忌避していたスーツを羽織り、淀みなく言い切った。

2019年 夏

僕たちは尖りに尖っていた。

「早稲田から1トン増やす会」を作り、ちゃんこ配布企画、ハチミツパン配布企画、そしてプール企画、ありとあらゆる企画を実行した。

新たな企画を生み出し続ける楽しさは何ものにも変えがたい経験であったし、学生生活を振り返った時、真っ先に思い浮かぶ場面の1つであろう。

しかしそんな僕たちのささやかな楽しさに水を差し続けていた存在がいた。

そう 他でもない大学職員だ。

バナナ配布企画では職員室呼び出し、ちゃんこ配布企画では警備員を派遣し撤収強要、極めつけはプール企画での人格否定。 

彼らはことあるごとに僕たちの前に現れ、楽しさを奪っていった。

「大学職員はつまらん奴ら」「あんな風になったら終わりだ」

僕たちはそんな恨み口を言っては大学職員に妨害された憎しみを晴らしていた。 

「あいつらがいなければ」そんな感情を抱いたことも一度や二度ではなかった。

当時の僕たちにとって大学職員は僕たちを困らせる「天敵」であったのだ。

それからいくぶん月日が経った。

どのような心境の変化があったか定かではないが彼は大学職員になった。

そしてこの瞬間 彼は未来の「天敵候補」たちに向けて大学職員の魅力を語っている。

あの時、恨み、憎しみ、蔑んだ「大学職員」に対して。

面白い。最高に意味不明だ。

彼の2年がかりの壮大なギャグは僕の笑いのツボを破壊するに十分なものであった。

いま目の前で「大学職員」の魅力を話す彼の姿と2年前「天敵」に向けて憎悪を向ける彼の姿が交互に現れる。

ダメだ。面白すぎる。

いまこの世界の誰よりも意味不明で面白いのは君だ。

#絶対に笑ってはいけない説明会

僕は彼のあまりの変化に対して心の中で大いに爆笑した。

ただその一方で 

ほんの少しだけ「さみしさ」を感じた。

天敵への憎しみを共有し、「無意味でくだらない」ことへ全力投球したあの時の彼といまの彼は違う。

1人の男として社会で生き抜くために過去の想いには触れず、大学職員の仕事を楽しんでいる。

いや彼だけじゃない。僕もだ。

以前の僕だったら天敵の魅力を雄弁に語る彼の姿に面白さを感じることはないだろう。

「そんなんはつまんねーよ」と一刀両断して、「AV出ろよ」とか面白いことの実現を強要しているだろう。

でもいまの僕は彼の変わり身っぷりに面白さを感じ、ゲラゲラ笑っている。

2年という短い月日の中で僕たちは変わった。

もう互いに社会に一泡吹かせようと結束することは無いかもしれない。

ただ僕たちの関係性は今も続いている。

今後も互いに変わり続けていくだろう。

それでも関係性だけは切れないなら良いんじゃないかと僕は思っている。

スーパーパンプマックスの使い方を考える その2

前回に引き続きスーパーパンプマックスの効能について考えていきたいと思う。

前回の即興パンプ体験では以下のことが分かった。

  • 心臓のパンプスピード向上
  • 行動力向上
  • パワー向上
  • 思考力の低下

この特徴を考慮した時、スーパーパンプマックスが力を発揮する機会とは何か。

思考力低下の副作用ゆえに知能労働は向かない。

知能がダメならパワーだ。

知恵よりパワー。パワーは全てを解決する。

やはりスーパーパンプマックスはパワーを発揮する分野で力を授けてくれるはずだ。

しかし僕はあいにくトレーニーでないので、日常でパワーを求められる機会はない。

いや 違う。僕は自らのパワー不足を言い訳にパワーを伴う活動を避けているだけじゃないのか。

自分のパワー不足からパワー労働に逃げているだけだろ。

パワーがあったらしたいことは必ずあるんだ。

スーパーパンプマックスがある今ならできる。何でもできるんだ。

僕はパワーがあったらやりたいこと。

僕の頭に真っ先に浮かんだものがあった。

瓦割り

僕は幼少期からテレビや映画で登場する瓦割りに対して密かな憧れを抱いていた。

最強にパンプした屈強な人々が己の拳のみで頑丈な瓦板を粉砕する。

その人間は非力であるという常識を根底から覆す爽快な破壊っぷりは僕の心を揺さぶった。

瓦を割りたい。

最強にパンプした僕ならできるはずだ。

パワーがあれば夢は叶う。

こうして僕は瓦割りへの挑戦を決意した。

瓦割りとは言ってもまずどこに瓦を割れる場所があるのか。

調査を進めていくとなんと浅草に瓦割りを体験できる場所があることが分かった。

世の中はやはりパワー優先だ。

パワー系たちを満たすニーズは必ずある。

僕は予約を取ろうとwebサイトを訪問したが、当日申し込みのみで、予約は受け付けていないようだった。

流石パワー系客層を持っているだけある。パワー系にとって瓦は割りたい時に割るもの。予約という概念が通用しないのだろう。

僕は予約を諦め、一路浅草へ向かうことにした。

浅草駅から店までは約10分。

僕はスーパーパンプマックスの効果が現れる時間を考え、新橋駅でパンプを注入した。

新卒駅から浅草駅まで約10分

浅草駅に到着するころには既に僕のパンプは始まっていた。

まんぼうなんてどこ吹く風、浅草周辺は和風かぶれの小日本人がわんさか沸いていた。

「全員ぶっ飛ばす」

パンプが止まらない。

僕は通りかかった小日本人たちの頭を片っ端からカチ割りたい気持ちでいっぱいだった。

暴れるパンプを必死に抑えながら歩くこと10分、ようやく瓦割り店が現れた。

やっと瓦が割れる。やっぱりカチ割るのは頭ではなく瓦だ。

僕の割りベーションは最高潮に達していた。

しかし

そこに待ち受けていたのは厳しい現実だった。

はいぐ~「瓦割りがしたいです。」

店員 「あ~ 今からだと一時間半待ちですね」

一時間半待ち!?

今日ほどストレス社会の現実を思い知った日はないだろう。

世の中には瓦を割らなければ生きてゆけないほど鬱屈としている人々が大勢いるのだ。

僕が単に観光で浅草に来ているのなら、一時間半なんてどうってことない。

しかし今日はパンプを入れているのだ。

パンプの効果時間には限りがある。

そう パンプは待ってくれないんだ。

僕は泣く泣く瓦割りを諦めた。

店を出た僕は失意のまま浅草の街を歩いた。

気持ちは落ち込んでいる。でも体は動きたがっている。

僕の中のパンプが解放してくれと叫んでいる。

#パンプが叫びたがってるんだ。

そんな心体不一致な僕の目の前にある思い入れの深い施設が現れた。

バッティングセンター

僕が以前 反射神経向上を目標に通った思い出の施設だ

当日は140kmの豪速球に手も足も出なかった。

でも最強にパンプした今なら…

パンプの結果を試すにはうってつけの施設だ。

打ってやる 140km 打ってやる

僕の心が再びパンプを始めた。

心と体の一致を果たした僕はギラギラとした雰囲気を纏わせ、バッティングセンターに入った。

しかし

そこで待っていたのはまたしても残酷な現実だった。

混雑 圧倒的混雑。

打撃成績をパンプしたい少年たちが黙々と鍛練を重ねる場であるはずのバッティングセンターは老脈男女が入り乱れる娯楽施設へと姿を変えていた。

これでは僕の打席がいつ回ってくるのか想像もつかない。

何度でも言おう。

パンプは待ってくれないんだ。

僕は再び失意のままバッティングセンターを後にしようとした。

だがその時 僕の視線の先にある娯楽が登場した。

「ザ・握力」

中央にあるレバーを力いっぱい握るだけという思考力を問わない簡素な構造。己の肉体をこれでもかと見せつけるパンプ感あるキャラクター。

僕のパンプ効果を測るにはぴったりの存在だと感じた。

そうだ。力を測るうえで何もバッティングである必要はない。

すっかりこの「ザ・握力」に魅了された僕はコインを入れ、画面の指示通り力いっぱいレバーを握った。

見ろ これが僕のパンプだ!!

47kg

あまりにも微妙な結果に僕はしばし唖然とした。

そうか スーパーパンプマックスは普段から鍛練を重ねる者にパワーを授けてくれるのであって、普段からゴロゴロ生活をしている者を一瞬で強くするサプリメントではないのだ。

ゴロゴロ民が飲んだところでせいぜい強くなった気がするだけだ。

ただその一方でスーパーパンプマックスがなかったとしたら、瓦割りに興味を持つこともなかったし、浅草に行くこともなかった。

そして何よりこの記事を書くこともなかっただろう。

僕はスーパーパンプマックスの真の効能はここにあると考える。

自分が普段しないことに挑戦する勇気をくれる。

これこそがスーパーパンプマックスの真の効能なのだ。

スーパーパンプマックス。ぜひ一度お試しあれ。

スーパーパンプマックスの使い方を考える その1

世の中には 漢としての血が滾る言葉がある。

スーパーパンプマックス

話は3月上旬に遡る。

僕は友人のこんりんと共にサウナの聖地「しきじ」を訪れた。

食事→サウナ→電車内うたた寝という至って平和な旅の終わり、彼は衝撃の告白をした。

「俺 薬物中毒なんだよね」

聞くところによると彼は筋肉増強を目指すがあまり、多くのサプリメント摂取に依存した生活を送るようになったという。

そんな彼が必死に購入欲望を抑えているサプリメントがあった。

スーパーパンプマックス

「スーパー」「パンプ」「マックス」強そうな言葉をこれでもかと並べた「ぼくのかんがえたさいきょうサプリメント」的ネーミング。

「パンプ感」という日常生活ではまず目にしないであろう宣伝文句。

どれも僕をスーパーパンプマックスの虜にするに十分な要素であった。

いったいこいつは僕の体にどんな革命を起こしてくれるのか?

効果を知りたきゃ買え。

僕はスーパーパンプマックスを購入した。

購入から1週間ほどたったある日、スーパーパンプマックスは唐突にやってきた。

レッド&ブルーという食品とは思えない毒々しいコントラスト、中央に堂々と鎮座する「スーパーパンプマックス」の文字。

宣伝写真をも上回る圧倒的な存在感だ。

流石「スーパーパンプマックス」期待を裏切らない。

僕はスーパーパンプマックスの素晴らしい容貌に感動し、撮影を繰り返した。

「さてこいつをどう使おうか」

「スーパーパンプマックス」を使用したトレーニーによると、スーパーパンプマックスには以下のような効果があるようだった。

スーパーパンプマックスの効能は?

・超パンプするぜ!

・集中力があっぷして筋トレしまくれるぜ!

・筋肉痛と疲労もなくなるぜ!

・いやっほぉぉぉ!

彼はトレーニング前に飲むことを推奨していたが、僕はあいにく トレーニーでもなんでもないただのはいぐ~だ。

トレーニング前に使うという概念は存在しない。

それよりもこれだけ素晴らしい効能がある「スーパーパンプマックス」をトレーニングだけにしか使わないというのは脳筋にもほどがある。

トレーニング以外にも何か「スーパーパンプマックス」が役立つ瞬間があるはずだ。

世界中の人々が「スーパーパンプマックス」を愛飲する世の中を作るために、「スーパーパンプマックス」の素晴らしい使い方を考案しよう。

まず僕はスーパーパンプマックスの「集中力向上」という効果に注目した。

「集中力向上」はパワーだけではなくインテリジェンスにも応用できるのではないか。

短い時間で次々と問題が現れる性質ゆえに、多くの集中力を必要とするWEBテスト。

その難しさゆえに悩める就活生も多いはずだ。

「スーパーパンプマックス」によって集中力が高まり、WEBテストで力を発揮できるなら、就活生にとって「スーパーパンプマックス」は欠かせないものになるはずだ。

僕はまずWEBテスト前に「スーパーパンプマックス」を飲むことにした。

聞くところによると「スーパーパンプマックス」はトレーニング30分前に最も力を発揮するらしい。

僕は推奨通りWEBテスト30分前に「スーパーパンプマックス」を飲んだ。

味はグレープフルーツの苦みだけを濃縮したような味で口が裂けても、美味しいとは言えない。

しかし効果さえあれば美味しさなど関係ないことは既にプロテインが証明している。

大事なのは効果だ。

飲んでから10分ほどで僕の体に変化が現れ始めた。

「心臓のパンプが速い」

凄まじい心臓の鼓動。ここまでパンプしているのは「人妻パラダイス」前にマムシドリンクを飲んで以来だ。

心臓のパンプが上がるにつれて、やる気のパンプも上がってきた。

WEBテストやりたい WEBテストやりたい 

人生でこれほどWEBテストを受けたくなったのは初めてだろう。

なんだか今なら凄い点数がとれる気がする。

僕は30分をも待たずに、自室の机に飛び乗り、WEBテストを開始した。

しかしテスト開始直後、重大な欠陥に気づいた。

「思考がまとまらない」

「スーパーパンプマックス」の効果により、心臓とやる気のパンプは大いに高まったが、その代償に思考力のパンプが大いに下がってしまった。

文章の内容が全く頭に入ってこないし、メモをとる量は増えたが、内容は支離滅裂だった。

唯一効果があるとすれば、クリック力が上がり、確実に選択肢をクリックできるようになったぐらいだろう。

「スーパーパンプマックス」が高めた集中力は思考力を犠牲にして成り立っていたのだ。

思考力を問う課題に「スーパーパンプマックス」は向かない。

では「スーパーパンプマックス」に向いている課題とは何か?

続く

~はいぐ~の小さな野望~ 日本一冷たい水風呂に入りたい

――サウナはいつだって人生の大切なことを僕たちに教えてくれる――

僕は以前本ブログにてサウナ素人の意地とプライドをかけ、サウナの魅力を熱く語った

この記事以降も冷めることなく、世界湯サウナほどの温度を維持した僕のサウナ熱は、僕を地元サウナ開拓へ走らせた。

街銭湯中の街銭湯「松の湯」から最新の設備がととのった「かるまる」まで

この世には開拓がいのあるサウナが至るところに溢れている。

#アナル開拓よりサウナ開拓

そんな大サウナ時代真っ只中の我が国日本に恍惚と輝き続けるサウナがある。

「ウェルビー栄」

日本のみならず、世界各地のサウナファンが愛してやまない「サウナの聖地」。

特に「日本一冷たい」と称される水風呂は関東一冷たい「かるまる」の水風呂をも下回る3℃。

サウナ開拓を志す者として必ず開拓せねばならないサウナに違いない。

このサウナに行かずしてサウナ開拓趣味を名乗るのは、指一本しか入らないのにアナル開拓趣味を名乗るようなものだ。

僕は「ウェルビー栄」開拓を決めた。

大寒波吹き荒れる12月某日

僕はあえて睡眠の取れないであろう夜行バスに乗り込み「ウェルビー栄」のある名古屋へ向かった。

移動自粛要請なんてどこ吹く風。社内は満員御礼。老若男女で溢れかえっていた。

さしたる観光地もない名古屋になぜこれほどまでの人々が苦しい思いをして夜行バスに乗り込むのか。

夜行バスの到着予定は朝6:00。この時間では名古屋自慢のグルメショップたちも目覚めていない。

そうなると答えは一つ 「ウェルビー栄」だ。

ここの乗客たちはみな早朝から空いている「ウェルビー栄」を堪能し、夜行バスでの不眠を補う快眠を果たすのだろう。

恐るべしサウナ熱。

やはり大サウナ時代到来は間違いではなかった。

夜行バスに揺られること約6時間。

僕たちを載せたバスは予定通り、名古屋駅近郊に到着した。

極寒の早朝名古屋に降ろされた乗客たちは熱を求め、ものの数分で「ウェルビー栄」方面へと消えていった。

サウナを求める人々のあまりのスピードについていけず、一人バス停に取り残されてしまった僕も一流サウナ通のアラタと何とか合流し、「ウェルビー栄」への歩みを踏み始めた。

三流名古屋メシ「なか卯」での休憩も挟んで歩くこと30分、聖地「ウェルビー栄」が姿を表した。

外の写真を撮るのを忘れたのでTシャツでご容赦下さい。

ビジネスホテル風の3階建てビル。

外観だけでいえば「聖地」には程遠い。

しかしサウナは見た目だけで決まらないことは小綺麗な外観にも関わらず、ハッテン場に成り下がった某マー湯が教えてくれた。

きっとこの「ウェルビー栄」には僕たちを驚かせてくれる「聖地」があるのだろう。

僕たちは期待に胸を膨らませて、「ウェルビー栄」に入店した。

受付を済ませ、すぐさま脱衣場へ。

男性専用にも関わらず、頻繁に脱衣場を往復する若女性店員にイチモツを見られつつ、足早に着替えを終え、浴場へ向かった。

浴場の広さは松の湯約3個ぶんほどとそれほど広くはなかったが、内湯1つにサウナ2つ、水風呂3つというこだわりのインテリア。

流石は「聖地」。ここはあくまでサウナを楽しむための場所だという主張がビンビンに伝わってくる。

そしてお目当ての「日本一冷たい水風呂」。

浴場奥に佇む2重扉の先に厳重に閉ざされ、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。

「これからここに入るのか」

僕は先ほどまでの期待が不安に変わるのを感じつつ、穢れた身体をシャワーで流した。

落ち着け。どんなサウナであってもやることは変わらない。

水風呂に入る前にはまず体を限界まで火照らせる。

「ウェルビー栄」には高温サウナと森のサウナという二種類のサウナがあった。

一流サウナ通アラタの「森はぬるい」というビックマウスもあり、僕たちは95℃のサウナに火照ることになった。

熱い!

冷静に考えればサウナ開拓にはまっていたのは主に11月。最後にサウナに入ったのも11月末、準備不足は自明の理であった。

僕はものの6分ほどで限界に達し、まだ火照りたげなアラタと共にサウナから出た。

”どんなサウナであってもやることは変わらない”

サウナで火照った後に待っているイベントはただ1つだ。

僕たちは高揚と不安に苛まれながらゆっくりと歩みを進めた。

待ち構える異質な2重扉。

サウナでの実力を証明し、自信ありげに先頭に立ったアラタが扉を開けていく。

寒い! 

アラタが2枚目の扉を開けた瞬間、凄まじい冷気が僕たちを襲った。

一説にはマグロ冷凍庫と同じ冷凍設備を使用しているらしいというこの水風呂。

流石は「日本一」期待を裏切らない。

あまりの冷気に畏れをなしたアラタは先ほどまでの自信が嘘のように、後ろへと下がった。

消去方的に先頭に躍り出た僕はこのまま戻る訳にもいかず、水風呂に足を踏み入れた。

その瞬間待っていたのは寒さでも、冷たさでもない。

痛みだ。

体の悲鳴がこもった痛み。

ルーティンを果たすために、痛みをこらえ肩まで水に浸かるとその痛みは全身に広がった。

身の危険を感じた僕たちは時間を数える間もなく、凍った手すりをつかみ、我先にと水風呂から飛び出した。

なんだあの水風呂は

サウナでじっくり限界まで火照らせた僕の体はたった数秒の水風呂で「冷」へと変わった。

恐るべし「ウェルビー栄」

僕たちの高い期待を大きく上回った。

しかし本当に恐ろしいのは水風呂だけではなかった。

どんなサウナであってもやることは変わらない。それがたとえ日本一の水風呂を前にしていても。

僕たちは先ほどあれだけ恐ろしい体験をしたのにも関わらず、すぐさま2セット目のサウナへと向かった。

水風呂がどれだけ冷たかろうが、1セットで終わることはできない。

真に恐ろしきサウナ開拓者の性だ。

その後も僕たちはサウナ→水風呂のルーティンを繰り返した。

次第にサウナの熱さには僕も慣れ、8分~10分の間耐久できるようになった。

一方で水風呂の痛みには最後まで慣れることができず、せいぜい10秒浸かるのが限界点であった。

この10分じっくり火照り、10秒一瞬で冷えるというルーティン。

どこかで経験したことがあるのではないか。

その「どこか」が何なのか。サウナ耐久中の回らない僕の脳ミソは常々この疑問に振り回されていた。

今ならはっきり言える。

このルーティンは人生そのものだ。

「積み上げるのは難しい、崩れるのは一瞬」

温かい関係を作るのには時間がかかるが、温かい関係は些細なことで一瞬にして冷え込む。

しかし「ウェルビー栄」が真にサウナと水風呂を通じて伝えたいことはこれだけではない。

冷え込んだ関係も時間をかけて温めれば最後に必ずととのう。

サウナはいつだって僕たちに人生で大切なことを教えてくれる。

「ウェルビー栄」はまさに「聖地」にふさわしいサウナであった。


万物は反射神経である 2

真に良いアイデアは、
ほとんどの人にとってひどいものに
見えるだろう。
そうでなければ誰かが既にやっている

ポール・グラハム

TOEICに通じる反射神経を鍛える上で多くの人々が思いつくのはやはり単語暗記であろう。

そんなことは気の緩みきった試験前の僕ですら容易に思いついており、実際に単語帳を作って何度も復習をしていた。

結果はどうだ?

基本に忠実な勉強法では反射神経を高めるには至らず、15問の空白を産み出した。

誰もが思いつくような方法ではダメだ。

「英語への反射神経」に囚われているから英語に関係するアイデアしか浮かばないんだ。

僕は一旦’英語’という概念から離れ、解決策を模索した。

反射神経を高めるためには?

反射神経を必要とするものは?

反射神経とは?

一通り考え抜いた僕の頭にあるアイデアが浮かんだ。

バッティング

そうだバッティングだ。

唐突に飛び込んでくる高速の球体に全身で反応するバッティング

これほど反射神経を鍛えるのに適した方法はないだろう。

英語とバッティング。

一見無関係に覚える二つの事柄がいま繋がった。

バッティングに強い可能性を感じた僕はすぐさま近隣のバッティングセンターを調べ、ある興味深いバッティングセンターを発見した。

「バッティングセンターブンブン」

素晴らしい名前だ。おそらくこの「ブンブン」という名称は「(英)ブン(英)ブン」という意味であり、バッティングを通じて英文読解力が上がるということを示唆しているのだろう。

やはり英語とバッティングには何か関係性がある。自らの仮説に自信を深めた僕はすぐさま「バッティングセンターブンブン」に向かった。

東急東横線菊名駅から徒歩13分。「バッティングセンターブンブン」は閑静な住宅街のど真ん中に堂々と鎮座している。

中に入ると既に英語の成績に困っていそうな野球少年たちが黙々とバットを振っていた。

彼らも英語の成績向上を願ってこのバッティングセンターに通っているのだろう。

彼らの真面目な姿に刺激を受けた僕は早速ゲージに立ち、バッティングを開始した。

当たらない。

100kmそこらの棒玉に僕のバットはことごとく空を切った。

辺りを見渡せば周りの少年たちは次々と快音を鳴らしている。

すごい。彼らはみなTOEICスコア900越え揃いに違いない。

こうして周りに感嘆しつつも簡単に空振りを重ねているとあっという間に1ゲームが終了した。

やばい。これでは反射神経のトレーニングどころではない。

100kmのボールにすら反応できない男が1000文字以上の英語に反応できるはずがない。

僕はどうすればボールに反応できるか考えた。

ふと昔観ていた2chの野球応援スレッドに「坂本勇人選手のフォームが打ちやすい」という書き込みがあったのを思い出した。

つい先日2000本安打を達成した坂本選手のフォームなら、1000文字、いや2000文字の英文にも反応できる反射神経を得られるに違いない。

僕は藁にもすがる想いで坂本選手のフォームを確認し、頭に叩き込んだ。

そして再度ゲージに立ち、彼のフォームの代名詞である高く足を上げてボールを待った。

カキーン!

これまでの不振が嘘のように鋭い打球が左後方へ飛んでいった。

打てる。打てるんだ。

自信を獲得した僕はその後も強い打球を連発した。

一通り打ち終えた僕は100kmゲージの隣に140kmゲージがあるのに気づいた。

僕は迷った。

このまま気持ち良く打つのであれば100kmだろう。

いや違う。

今日はストレス発散のために来ているのではない。反射神経強化のために来ているのだ。

140kmすら反応できないようでは、TOEIC9割など夢のまた夢であろう。

#打てっこないを打たなくちゃ

坂本打法への自信と未知なる140kmへの恐怖。

二つの相反する感情を抱え、僕は打席に入った。


速い 速すぎる。

僕が大きく上げた足が地面に着く間もなく140kmの火の玉ストレートが突き刺さった。

テレビであれだけ遅く見える140kmがこんなにも速いとは。 

この速さの玉をいとも簡単に打ち砕くプロ野球選手の反射神経には感服せざる負えない。

その後も僕はさっきまでの快音が嘘のように空振りを連発した。

僕は自らの反射神経不足から足を大きくあげる坂本打法への限界を感じ、よりタイミングのとりやすいすり足の元阪神マートン打法に切り替えた。

マートン打法に切り替えたことにより、超降り遅れが減り、バットにかするようになった。

しかし素人のすり足打法は実質ただバットを振り下ろしているだけに過ぎない。パワーを失った僕のスイングはことごとく140kmの球威に負け、バックネットに次々とボールが溜まっていった。

ファールチップと空振りを重ねること数十球。

ついにその瞬間はやってきた。

例のごとくマートン打法でボールを待つ僕、これまた例のごとく無慈悲に白球を投じるマシン。

僕は運動不足からなる腰の痛みにも耐え、必死にバットを降った。

ゴツン

鈍い金属音と共に宙に舞った白球は、僕が打球の行方を追う間も与えず、1メートル前に力なく落ちた。

手元を見るとバットの柄の部分に白い跡がついていた。

完敗だった。

僕の反射神経は所詮100kmレベルでしかないのだ。

この程度の反射神経では15問残しも無理はない。

前述した元阪神マートン選手は圧倒的な反射神経でプロ野球安打記録を達成し高額な年俸を得るだけでなく、TOEICスコア900以上を記録可能な高い英語力も獲得していた。

優れた反射神経を獲得することはバッティングだけでなく、英語力向上、収入増加にもつながるのだ。

これらの例からもいかに人生において反射神経が重要であるかよくわかるだろう。

僕の反射神経はまだこうした一流反射神経者に遠く及ばない。

世界の全てを獲得するために。

僕は今日もバットを振り続ける。

万物は反射神経である 1

万物は反射神経である。

これは2020年11月、僕が出した結論の一つだ。

なぜ反射神経なのか。

これから綴る内容を読めばあなたも理解できるはずだ。

僕は先日TOEICを受けた。

就活に使えそーとか英語力測りたーとかいう安直な理由からだ。

もちろん勉強はしていたが、留学後のワンチャンスに掛けていたHSKに比べて気の緩みは明らかだった。

こうした緩みは試験当日にしっかりと表れた。

僕は試験の必須品とも言える時計を忘れてしまったのだ。

時計の無い試験会場と豪勢な時計をテーブルに誇示する受験者たちの姿を目の当たりにし、一瞬焦りを覚えたが、「10分前になったら試験官が教えてくれるだろう」という安易な想定に身を委ねてしまい、その時はあまり深く考えなかった。

若干の不安を覚えつつ試験は始まった。

人間とは不思議なもので不安があろうが、気が緩もうが、試験が始まった途端に忘れてしまう。

僕もその例外ではなく絶え間なく現れる英語と格闘しているうちに時計のことなどすっかり忘れてしまっていた。

そして試験も残すところあと15問。

「以外といけたんじゃね」

そんな考えがちらほらとよぎる頃だった。

‘試験を終了します。解答を止めてください’

!?

終わり!?

10分前コールは?

初老試験官の無情な宣言により試験は突然終了した。

唖然とする僕を尻目に初老試験官は手際よく試験用紙を回収していった。

僕が最初に覚えた感情は怒りだった。

試験終了10分前を告げない初老試験官への怒り、腕時計を忘れた自分への怒り。時計を置かない試験会場への怒り。

しかし僕はこれらの怒りが全て的外れであることにすぐに気がついた。

何が一番悪い?

全ては僕の英語力不足だ。

全ては僕の読解速度の遅さだ。

試験官、試験会場、腕時計 仮に全部理想であっても15問落とす事実は変わりないのだ。 

ではなぜ長文読解が遅いのか。

長文読解の肝は大量の英文と英単語に対して素早く反応して理解することである。

いわば英語への反射神経力は読解力に直結する。

僕にはこの反射神経が圧倒的に足りていなかった。

反射神経を高めなければ、時間内に全ての問題を解くことはできない。

僕の反射神経強化訓練がここに始まった。

続く