吹きつけるのはいつも北風

僕は先日あるバイトを通じて恐ろしい社会の闇を垣間見てしまった。

話は先月にさかのぼる。

僕は先月ウーバーイーツに登録した。

ウーバーイーツとは主に新宿などに生息する、家中の紙を紙幣に変えて消費してもなお余るほどの大金を手にした超上級国民たちが、

ただ金を使うだけでは飽きたらず、小金をエサに僕たち下級国民たちをパシりに使い、配達を行わせるという「現代のアンシャンレジーム」を象徴する階級制サービスである。

ウーバーイーツは基本的に配達の際に、自転車を使うことが多いのだが、僕は自転車で坂を登るのが面倒だったので、

「新宿だったら最悪電車を使えば、歩きでも配達できるだろう」とたかをくくり、歩きで配達を行うことにした。

最初のうちは流石は「天下の摩天楼」新宿。

たった500mの距離でも惜しげもなく配達を頼む特権階級たちのお陰で、「歩き」の遅さを気にすることもなく、配達ができていた。

僕は第三身分としてパシられる人生も案外悪くないと階級社会の良い側面に感謝していた。

しかし「歩き」による負の側面は唐突に現れた。

「〒※※※-※※※※ yotsuya~」

四谷!?

僕はその時南新宿にいた。

南新宿から四谷までは「歩き」を使うと1時間ほどかかってしまう。

あいにく僕は四谷方面の定期券は持っていない。

四谷まで往復で電車に乗ったら、電車賃が配達報酬を越えてしまい、本末転倒になってしまう。

歩くしかない。

僕は自らがブルジョワジーたちの奴隷であることを思い出し、無我夢中で歩いた。

そして歩くこと約1時間、ついに目当ての家にたどり着いた。

配達対象のから揚げはとっくに冷たくなっていた。

僕はそんなことも気にせず、1時間かけて配達したという達成感を覚えながら、意気揚々とインターフォンを鳴らした。

「そこに置いて、さっさと帰って!!」

僕はこの時ほど彼らの恐ろしさを見に染みて体感したことはない。

僕は無意識のうちに「金持ちは生活に余裕があるから心も広い」だなんていう安易な空想を描いていた。

アンシャンレジームの時代を思い出して欲しい。

金持ち階級たちは数百年にも渡って自分たちが有利になるような仕組みを作り続け、貧困に喘ぐ下僕たちから搾取し続けていたのだ。

そんな彼らの心が広いはずがない。

たった1パックのから揚げが思った時間に届かなければ怒り狂う。彼らはそんな種族たちだ。

おそらくアンシャンレジームの時代だったらその場で処刑されていただろう。

僕は現代が表向きは非階級社会であるという事実に感謝しつつも、「さっさと帰る」気力はもはやなく、とぼとぼと家路へ向かった。

はよ帰れ

冷たい言葉を

浴びるとき

吹きつけるのは

いつも北風。

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