「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」

ご存知の通り僕は毎日コスプレで登校している。

コスプレしているとよくこんな質問をされることがある。

「家からこの格好なの?」

答えはもちろんYESだ。

僕はコスプレも私服の一つとして捉えている。

言うなれば「家から私服なの?」

と聞かれているようなものである。



しかし家からコスプレすることによって、

少々困ったことも起きている。

それは両親との遭遇だ。

父親はさほど関心を示してないものも、

母親は毎回「恥ずかしいからやめてくれ。」

「警察に捕まったらどうするんだ。」と

何かしら苦言を呈してくる。

そこで僕は警察に捕まることも、

恥ずかしいと思われることもないコスプレを考えた。



出た結論は「捕まえる側になれば良い」だった。

服装の問題で警察に捕まるのが怖いなら、

警察と同じ服装をすれば、

捕まることはないのではないか。

それに日本の平和を守る警察官の格好は

カッコよくて、恥ずかしさなど全く無い。

そして今日1月10日は110番の日。

この画期的なコスプレを試すには絶好の機会だ。

こうして僕の1日警察官生活が始まった。

警察官になった僕はこの世の悪事を

次々と摘発するために東京と神奈川を往復し、

目を光らせていたが、

ここは治安世界一の日本。

そう簡単に悪事は見当たらない。

むしろ警察官のコスプレをして、

あたりをキョロキョロと見渡し挙動不審な僕が

一番怪しい存在だった。



この時僕はニーチェの

「   深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ 」

という言葉を思い出した。

怪しい存在にならないようにするために

警察官のコスプレをした結果、

街で一番怪しい存在になってしまったのだ。

結局のところどんなコスプレをしても、

怪しい存在になってしまうのは避けられない。

母親もそのうち呆れて何も言わなくなってくるに違いない。

だから僕は割りきって

今まで通り奇怪なコスプレを続けていくだけだ。

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