香港の巨大魚を狙おうとした、しかし挫折した。

話は数週間前にまでさかのぼる。

僕は今回の旅を実行するにあたって、

いくつかの香港に関する旅ブログを読んでいた。

こうした旅ブログの多くは、グルメや観光地といったありきたりなものが多かったが、

その中で ある個性的なブログが僕の目を引いた。

「香港のドブでアフリカの巨大魚「クラリアス」を釣る」http://www.monstersproshop.com/hongkong-clarias-catfish/

「ドブ」「アフリカ」「釣り」といった香ばしいワード。

そしてアフリカの巨大魚という異名にふさわしい圧倒的なビジュアル。

これらのロマン要素は、半年ほど前の自給自食生活以降、鳴りを潜めていた僕の釣り欲求を完全復活させた。

この記事によると、どうやらこの「アフリカの巨大魚」はルアー(疑似餌)に食い付くとのことだった。

しかしこれまでの僕の釣り経験といえば、せいぜい生きたエサを使った雑魚釣り程度で、

「巨大魚」と呼ばれる魚をルアーで釣ったことはないし、適切な道具も持っていない。

ならどうする?

答えは一つだ。

「買う」

僕は足りない脳ミソと資金を半回転させ、

「ルアー 初心者 オススメ 竿 」などと検索しては、ヒットした商品をなんの疑いもなく次々と購入していった。

竿 リール 糸 ルアー 気づいたときにはもう総額は15000円を超えていた。

この時 僕は「この商品を買った人はこんな商品も買っています。」と言って、竿の後はリール、リールの後は糸といった具合で次々と商品を紹介してくるアマゾン商法に完全に釣られていた。

釣りを始めるにはまず、自分が釣られないといけないということを、僕はこの時痛感した。

なにはともあれ、僕は巨大金をはたいてアマゾンに釣られたことによって、アフリカの巨大魚を釣る準備を完了させたのであった。

こうして準備を完成させ、意気揚々と香港に乗り込んだ僕であったが、いまだに一抹の不安を抱えていた。

「正確な場所が分からない」

先ほど述べた記事では、釣りを行った場所まで「地下鉄」で行ったということが書かれているのだが、実際にどの駅で降りて、何分歩いたかといった詳細な情報が書かれていない。

「自分で見つけた場所を安易に教えたくない」という釣り人特有のプライドなのかも知れないが、情報サイトとしてはあまりにも不親切すぎる。

他のサイトを見ても、詳細な情報が書かれているものは無かった。

仕方がないので、僕は「地下鉄」「ドブ川」といった数少ない情報で、グーグルアースを使って釣り場を探すことにした。

そして探すこと数分、泊まっていたホテルの近くに怪しげなドブ川があるのを発見した。

大量の汚水を吐き出しそうなビル群、汚水を濃縮していそうな狭い川端。「アフリカの巨大魚」が潜む川に違いない。

僕は迷わず行き先をこの川に決めた。

そしてバナナ配布を終えた6月8日の正午、

僕は大きな期待を胸にこの川へ向かった。

今回の釣り場の最寄り駅である大囲駅

最寄り駅に降り立つと、すぐに期待どうりに巨大なビル群たちが僕の姿を出迎えた。

「巨大ビル群の影に潜む巨大魚」

僕はビル群の先に存在するであろう未知なる巨大魚についての妄想を膨らませながら、

釣竿を片手に上機嫌で釣り場への道を突き進んだ。

途中、道行く老婆が僕の釣竿を見て、何か語りかけてきていたが、当時の僕に彼女の声を聞き入れる聴力は無かった。

そして駅から歩くこと十数分、僕はついに釣り場であるドブ川にたどり着いた。

「さてどこから巨大魚を狙おうか」

そう川を見下ろした次の瞬間、僕の目の前に衝撃の光景が広がった。

「水が無い」

川の水は完全に干上がり、とても魚を釣ることのできる状態ではなくなっていた。

さらに川辺には至るところに「釣り禁止」を意味する看板が置かれていた。

「間違えた。」

僕がグーグルアースで見たドブ川はただの干上がった水路だったのだ。

おそらく途中で話しかけてきた老婆は、僕に釣りができないことを伝えにきていたのだろう。

僕はこれだけの巨大金をはたいたのにも関わらず、竿を使うことすらできないという現実にひどく落胆した。

しかしせっかく香港まで釣り道具を持ち込んだのだから、何とか釣糸くらいは垂らしたい。

水路があるということは、水路につながる川があるに違いない。

僕はなけなしの容量を用いてグーグルアースを開き、近くの川を探した。

すると案の定 近くに川端の広い川があることが発覚した。

僕はすぐにこの広めな川に向かうことにした。

このころ もはや僕の目的は完璧に「巨大魚を釣る」から「釣糸を垂らす」に変わっていた。

バスや電車を乗り継ぐこと数十分、ついに広めな川が僕の視界に飛び込んできた。

この川も先ほどの川と同じく、「釣り禁止」の看板が置かれていたし、小魚が跳び跳ねている程度で、全く巨大魚がいる雰囲気は無かった。

もうそんなことはどうでもいい。

僕は「釣り糸を垂らせる」という喜びに溢れ、比較的安全そうなところから川岸に入り、釣りを始めた。

釣りを始めるとすぐに若干のアタリがあった。

「魚が食いついた!?」

正直 釣りを始めることができただけで、感動していた僕はまさかのアタリに驚き、急いでリールを巻いた。

「はたいた巨大金」「最高気温37℃」

「徒歩数十分」「干からびていた水路」

「釣り禁止の看板」

この時 僕の脳裏には今回の釣りを始めるまでの苦労が走馬灯のようによぎっていた。

いま この瞬間 全ての苦労が報われようとしているのだ。

僕は万感の思いで竿を引き上げた。

「ゴミ」 

僕は静かに竿をたたみ、釣り場を後にした。

「香港の巨大魚を狙おうとした、しかし挫折した。」への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。