それはたった2時間あまりの出来事だった。
僕は全財産の半分である10万円を失った。
きっかけはほんの少しの出来心であった
僕は今回6月7日から9日にかけての3日間、香港周辺に滞在していた。
7日 昼 深セン観光 夜 ピンポンマンション
といった具合で8日までの予定は簡単に決まった。
さて9日に何をするか。
流石に香港も3日目となると少し飽きてくる。
深センはもう行ったし…。
そう悩んでいた僕にある危険な選択肢が浮かんできた。
マカオ
「マカオ行ったことないし、せっかくだから行ってみよー♪ カジノでお金増やせたらラッキーだし♪」
僕の行き先はマカオに決まった。

そして運命の6月9日がやって来た。
僕は前日、夜遅くまで100万ドルの夜景を見ていたので、11時ごろに起床した。

すぐに荷支度をして、宿舎を出る準備をしていると宿舎のおばさんが、中国語で「近くで政治パレードをやるから見てきたらどう?」と話しかけてきた。
僕はせいぜい地元のお祭りぐらいの規模なのだろうと思って あまり深く考えてはおらず、適当におばさんをあしらって宿舎を出た。
後で調べて驚いたのだが、おばさんが語っていた「政治パレード」はこの日偶然、香港で行われた史上最大級のデモだったのだ。https://news.yahoo.co.jp/pickup/6326196

このデモにコスプレで参加したらどうなっていたことやら。
僕は貴重なチャンスを逃してしまった。
あの時 素直におばさんの指示に従っていれば…
話を元に戻そう。
宿舎を出た僕は適当に昼飯を済ませ、すぐにマカオ行きのフェリーへ乗った。


僕はフェリーに乗っている時、カジノ情報を読み漁った。
ポーカー ブラックジャック ルーレット スロット。マカオには実にたくさんのゲームがある。
これだけ多くのカジノゲームを作り出す人間のギャンブル欲の凄まじさを改めて痛感した。
この多種多様なゲームの中で、僕の興味をひときわそそったものがあった。
「大小」だ。
「大小」とは簡単にいうと3つのサイコロを同時にふり、出た目の合計が11以上の「大」か11未満の「小」かを当てるゲームである。
当たると賭け金は倍になり、外すと掛け金は没収される。
詳しいルールはこのサイトに乗っているので気になった人はぜひ見てほしい。
僕は知識など一切関係なく、ただ「大か小かをかける」という「大小」の強いギャンブル性に完全に魅了された。
僕はこの「大小」に関するブログを漁った。
すると、あるカジノで初心者が大小で大勝利を収めたという記事が僕の目に留まった。https://macaupackers.com/casino_episode1/
この記事の執筆者はなんと「大小」で1000香港ドル(15000円)をたった1時間ほどで、6000香港ドル(90000円)まで増やしたと語っている
彼の理論はこうだ。
「カジノ側は客に大きな利益をあげさせたくないから、大勢が同じ所にかけた場合は、その逆が出るように仕組んでいる。よって大小の必勝法は賭け金が大か小のどちらかに偏った時にその逆をかける。 」
僕はこの理論を聞いてとても納得した。
実際に勝っている人間が言うのだから信頼できる。
この理論さえ知っておけば、もう勝ったようなもんだ。
10万手に入れたら、何に使おうか。
あらゆる労働をやめて、これからはカジノで食っていこうか。
「マカオカジノ必勝法」なんてブログでも書こうかな~
僕はすっかり勝った気になって、不純な妄想を膨らませていた。
こうして僕がありもしない空想に更けていると、あっという間にフェリーはマカオに到着した。

マカオに降り立った僕はすぐに例のブロガーが勝利したと伝えらている五ツ星ホテルシェラトンマカオに向かった。
そして着いたシェラトンマカオはカジノからレストラン、さらには巨大なホールまで兼ね備える大変豪華な建物だった。
しかし この時僕の頭の中はカジノに侵食されていたため、写真をとる余裕などなく、ただただ道行く人々に「where is casino?」と聞き続けていた。
そして 心優しいホテルマンたちに助けられ、僕はついにカジノの扉を叩いた。

実際にこの写真を撮ってる時に注意されました。
カジノ内では夕方にも関わらず、多くの人々が血走った目で必死にゲームの行方を追っていた。
彼らの真剣な姿は僕の賭博欲求に火をつけた。
「賭けたい 賭けたい 賭けたい」
僕はすぐに両替所に向かい、会員専用ゴールドカードを作り、手持ちの600香港ドル(9000円)をチップに変えた。

「これがチップか」
このころまだチップを日本円計算する余裕があった僕は1枚1500円という破格の100ドルチップの重みを強く感じていた。
そしてこの6枚のチップを握りしめ 僕は「大小」が行われるフロアに向かった。
案の定「大小」には多くの人々が集まり、至るところで悲喜こもごもな歓声が上がっていた。

しかし僕はここである重大なミスに気づいた。
ここの「大小」の最低賭け金は300香港ドルだった。僕の手持ちは600ドルしかない。
つまり僕は最低2回しか賭けに参加することができない。
ただ今の僕には最強の「理論」がある。
僕の持ち金が足りないことなんて、何の問題でもない。
僕は先ほど紹介した「大勢が賭けた方の逆側に賭ける」を実践する機会をうかがった。
するとすぐに 「大」の側に 数十枚の1000香港ドルチップ(15000円)が置かれるなど、その場にいた全ての人々が「大」の側にチップを置く瞬間が訪れた。
「チャンス」
僕は彼らの動きに反してすぐさま「小」の方に300香港ドルチップを置いた。
「しめしめ 大勢に流されるなんてバカな奴らだな」
そんなことを考えて結果を待っていた。
しかし待っていたのは驚愕の現実であった。
「負け」
電光掲示板には14の数字が掲示されていた。
自らの勝利に喜ぶ人々を尻目に、ただ一人だけ別の方へ賭けた僕の300香港ドルは虚しく回収された。
「あり得ない 何かの間違いだ」
僕は別の卓でもう一度理論を試したが、結果は変わらかった。
こうして僕のなけなしの600香港ドルは10分足らずで消えてしまった。
現金を失った僕は悩んだ。
ここでカジノを辞めるか、それとも…。
しかしフェリーの時間までまだかなりある。
それに理論が破れた今こそ「真のギャンブル」を味わうチャンスなのではないか。
僕は本能的に検索を避けていた禁断のワードをグーグルに打ち込んだ。
「マカオ カジノ クレジットカード」
検索結果 使える。
知ってしまった。もう戻れない。
僕はすぐさま両替所に行き、2000ドルチップ(30000円)を手に入れた。
そして僕は再び「大小」のフロアに戻った。
僕は理論を捨て、本能と周りの流れを見て300香港ドルチップを賭けた。
すると先ほどまでの苦労が嘘だったかのように勝利をあげ、一時はプラス900香港ドルまで増やすことに成功した。
しかしここで僕に危険な誘惑が襲った。
「1000単位で賭けたらどうなるのか」
僕の周りのギャンブラーたちは1000ドルチップを数十枚所有し、みな1000単位で賭けを行っていた。
そんな中、1人だけ最低賭け金300ドルを賭け続ける自分を見ているのが悲しくなってしまった。
「せっかくマカオに来たんだから派手に行こうぜ!」
僕は手持チップの大半である2000ドルチップを派手に賭けた。
「負け」
僕がこれまでコツコツためたチップたちは見るも無惨に回収されてしまった。
その後も流れは変わらず、僕は再び無一文となった。
「なんかイケる気がする」
コツコツ戦法で一定の手応えを感じた僕は「もうちょいあれば勝てる」と確信し、今度は3000香港ドル(45000円)分のチップを購入した。
「もう2度と全賭けはしない」
僕はこう固く決意した後、再び決戦の地へ足を運んだ。
三回目の挑戦は困難を極めた。
500ドル勝っては500ドル負ける、長い勝ちも負けもなく、戦いは長期化した。
それでも少しずつ借金は減っていき、カジノ開始から1時間がたったころには最高2600ドルまで膨れた借金は400ドルにまで減っていた。
「この一進一退の流れを何とかして変えたい。」
そう考えた僕はどうやったら流れを変えられるか考えた。
しかしもはや1時間以上カジノに入り浸り、すっかりギャンブル脳になっていた僕の頭に浮かんだ考えは
「大きく勝つ」 だった。
喉元過ぎれば熱さ忘れる。あれほどさっき痛い目を浴びたはずなのに、この時 もう先ほどの全賭け負けが脳裏から消えかかっていた。
「大丈夫 勝てばいい」
僕はこの時の手持ちの大半であった3000ドルを賭けることに決めた。
「絶対勝つ」
僕はこの3000ドルを賭けるにあたって、この「大小」の法則性を導き出そうと考えた。
しばらく賭けるのをやめて観察していると、
このカジノには全部で「大小」の卓が15個ほどあったのだが、いくつかの卓では、連続して同じ数が出やすいことが判明した。
そして これらの卓に絞って観察を続けると、
大と小が交互に出る可能性が極端に低いことが分かった。
つまり長く大が続いた後に小が出た場合は次も連続して小が出る。
僕はこの法則性の正しさを確信した。
そして特定の卓に絞り、その瞬間を刻一刻と待った。
「大」「大」「大」「小」
来た。
僕は誰よりも早く「小」の部分に3000ドルチップを置いた。
そして僕は祈るような思いで、ただひたすらサイコロの入った箱を見つめていた。
ディーラーが賭け時間の終了を伝えていた。
僕にはもう箱しか見えていない。
何度もうんざりさせられた待ち時間での大げさな演出も今は耳に入らない。
たった数秒の待ち時間が永遠に続くかのように感じた。
「来い!」
箱が開いた。
そこにあったのは4と6が記されたサイコロだった。
もうひとつは覚えていない。
僕は4と6が見えた時点でそっとその場を離れた。
卓上では「大」をコールする演出と、人々の歓声がこだましていた。
また負けた。
一時間かけてマイナス400ドルまで持っていった借金は一瞬で3400ドルまで膨れ上がった。
理論とは何だったのか。
僕は全ての気力を失い、残りのチップも惰性で適当に賭け続け、最後には全て失った。
こうして僕はカジノにてたった2時間で全財産の半分である10万円を失った。
帰り道 僕は自分が10万円を失ったという現実を理解できず、「何か楽しい体験をしたんだ!」と思い込み、ずっと笑っていた。
あはははははは! あははははははは!