オシリアに気をつけろ

知っている人もいるかもしれないが、僕は最近必然の出会いをきっかけにお尻を酷使している。

僕の尻を求め世界中からやってきた猛者たちの要求に応えようと日夜フル開閉した僕のお尻は限界を超え、焼き付くような痒みを発生させるようになった。

僕は悩んだ。

一度踏み外してしまった道からもとの道へもどろうか。

しかしいまここで僕が第二線を退いてしまったら、僕の尻を求め集まってきた豪傑たちはどうなってしまうのか。

もしも彼らが処理しきれなかった自らの欲望を破壊衝動へと変え、店を破壊し、街に火をつけ、男を貪るといった具合でこの街の全てを壊してしまったら…

僕はどう責任をとればいいのか。

いま世界の命運は僕の尻にかかっているといっても過言ではない。

となれば答えはひとつ

「今後も戦い続ける」

僕はこの世界を陰から支えるために戦士の持病ともいえる痒みと向き合い続けるしかないのだ。

どのようにして痒みと向き合えばよいのか。

ひたすら我慢することができれば話は簡単だ。しかし尻に生じる「痒み」というのは虫刺されで発生するようなそんじょそこらの痒みとはわけが違う。

普段は意識していても、就寝中やトイレ後に無意識のうちに手が伸びてしまう。

一度掻いてしまったら最後、この「痒み」たちは永い眠りから覚め、尻という名の楽園を謳歌するかの如く思う存分に暴れ回り、僕の尻を破壊していく。

この「痒み」をどのようにして対処しようか。僕は来る日も来る日も頭を悩ませた。するとある日、興味深いCMが僕の目に飛び込んできた。


「お尻の悩みにオシリア♪」


そのCMは「お尻」という放送コードギリギリの内容をポップなミュージックとキャッチーなイラストでまるで高級な香水でも扱っているのではないかと感じさせるCMを繰り広げていた。

僕はこのたった15秒間のCMに魅了された。

この世には自分と同じようなお尻への悩みを持った人がいる。そしてそうした悩みをもった人々を明るく助けてくれる社会がある。

この世界もまだまだ捨てたものじゃない。僕にはこの素晴らしい社会を支える義務がある。

僕はこのCMを観た次の日に迷わずドラックストアに向かい、世紀の秘薬「オシリア」を購入した。

高揚した。

なにせ幾度となく人々の尻を救って来た秘薬「オシリア」を手に入れたのだから。

もちろんその日もいつものように「痒み」が僕のお尻を襲った。

しかし今日は「オシリア」がある。

今日さえ我慢すれば、「オシリア」が全てを解放してくれる。

僕は頭の中で「オシリア」「オシリア」と何度も唱えて、必死に「痒み」をこらえた。

こうして「痒み」をこらえ帰路についた僕は、家に着くとすぐにお尻を出した。

「ついに解放される」

思えば長い戦いだった。これまでの人生でこんなにお尻について深く考えたことはなかっただろう。

僕は満を持して慎重にバッグから「オシリア」を取り出し、ゆっくりとお尻に塗りたくった。

「痛い!」「痛い!」

なんだこの痛みは!?

「オシリア」を塗った瞬間、

地獄の業火が宿ったかのような強烈な痛みが僕のお尻を襲った。

僕の安易な「オシリア」の使用が「痒み」たちの逆鱗に触れたのだ。

自らのプライドを刺激された「痒み」たちは次々と痛みの業火に姿を変え、僕のお尻を焼き付くした。

「オシリア」は秘薬ではなかった。

皆さんに1つだけ伝えたいのは、

決して安易な気持ちで「痒み」を刺激してはならないということだ。

「痒み」たちは己の痒生をかけて痒みを作り出している。

彼らの気概に答えるためには、僕たちも「オシリア」などという姑息な手に頼ることなく人生をかけて彼らに向かい合わなければならないのだ。

「痒み」と僕の戦いはこの先も終わりを見ることはないだろう。

to be continued…

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