「緊急事態宣言延長」
この宣言は長引くコロナ渦において客足の減少に苦しむ飲食店たちに悲しみと絶望を与えた。
「正直うんざり」「もう終わりだ」といった悲鳴が飲食業界各地から聞こえることも多い。
一方で緊急事態宣言なんてどこ吹く風、強い集客力で繁盛を極め続ける飲食店もある。
吉村家だ。
某道家など数多くの悪徳飲食店を世に送り続ける家系ラーメン界隈の元祖として熱狂的な支持を集める一流ラーメン店。
世界屈指のラーメン激戦区横浜駅周辺においても、その唯我独尊とも言わんばかりの圧倒的な人気で頂点に君臨し続けている。
いま横浜で一番人口密度が高い場所といっても過言ではないだろう。
しかし僕は吉村家徒歩圏に住む横浜市民の一人としてこの異常とも言える人気に疑問を抱き続けていた。
何を隠そう僕は大のアンチ吉村家だ。
理由は簡単。吉村家が大量の悪事を働いていることを知っているからだ。
吉村家の悪事一覧
- 行列詐欺(10席以上連続で席が空かないと店に客を入れない)
- 行列詐欺で道を塞ぐ
- ライスのお代わりを導入しない
- 時短要請に応じない
- 道にスープの残り汁をばらまく
これらの悪事は吉村家が犯した罪のほんのわずかに過ぎない。
行列による待ち時間はもちろんのこと、上記のような悪事を知っている僕は吉村家=悪、横浜を知らない田舎っぺがありがたがる食いもんという認識を持ち、頑なに吉村家を避け続けてきた。
吉村家を避け続ける僕が行くラーメン屋といえば一つ。「横浜家」だ。
この横浜家は吉村家の真向かいという超良立地にあるのにも関わらず、常に異常な空き具合を見せている。
僕はこれまで22年間横浜に住み続けているが横浜家に行列ができていることはいまだかつて見たことがない。
とはいえ横浜家は決して劣ったラーメン店ではない。むしろ多くの点で吉村家を上回っている。
まずは値段。写真からわかるように横浜家のラーメンは500円だ。これは吉村家のラーメンが720円であることを考慮すると明らかに安い。
安いからといって質素な訳ではない。
写真でわかるように家系の基本トッピングは網羅しているし、味もあっさり系で悪くはない。
そして何より横浜家はスタンプカードを導入し、リピーターを労うという称賛に値するおもてなし精神を持ち合わせている。
「お客様はわが味の師なり」とか言いながら何のサービスもせず殿様商売を続ける吉村家は大きく異なるのだ。
以上の理由から僕は吉村家はにわか、横浜家こそが至高と自らに言い聞かせ、横浜家に足しげく通い続けていた。
そして発表された緊急事態宣言。世間では密を避けろの大合唱。吉村家の集客力も衰え、ついに横浜家の時代がやってくる。
横浜家の可能性を信じ続けた僕は世間が目を覚ますのを信じて疑わなかった。
結果はどうだろうか。
吉村家は大繁盛、横浜家は閑古鳥。
状況は何も変わらなかった。
何が人々を吉村家に向かわせるのか。
僕はこれまで無意識に吉村家=悪と決めつけていた。しかし本当に悪ならばこれだけ多くの人々が集まるだろうか。
僕は悪という先入観に囚われ、吉村家の魅力を見失っているのではないか。
吉村家の良さを知るためには吉村家に行くしかない。
こうして僕は約5年ぶりに吉村家の行列に並び始めた。
並び始めて数分、吉村家お得意の行列詐欺が始まった。奴らは列が3列になり、隣の店の前にまで達しそうになると、店に客をまとめて入れて、行列解消を図る。
行列が減ったらまた、店の前を行列が埋め尽くすまで、客を店に入れず待つ。
こうして奴らは店の前に一定の行列が出来る状態を保っているのだ。やはり悪の権化 吉村家。
開始早々不快な光景を目の当たりにした僕は並びを止めて目の前に立つ横浜家に入ろうか迷った。
しかし今日は何としても吉村家を食わなければならない。
不快な気持ちは文章で発散せよ。
僕は本ブログを開き吉村家の悪事を書き始めた。
悪事を書くこと約1時間、ようやく行列詐欺も終わり、僕は吉村家店内へ足を踏み入れた。
注文はもちろん硬め、濃いめ、多めだ。
硬め、濃いめ、まずめが出ないよう願うこと数分、ついに吉村家自信の一杯がやってきた。
オーソドックスな家系ラーメンだ。ここまででは横浜家と大きな違いはない。
問題は味だ。若き日の貴重な1時間を捧げる価値はそこにあるのか。
僕は恐る恐る麺をすすった。
うまい うますぎる
スープの濃厚さ、麺の固さ、ほうれん草のシュワシュワ度、全てが最高だ。
僕は先ほど横浜家のラーメンをあっさりしていると評したがそれは間違っていた。単に横浜家は味が薄いだけなんだ。
家系ラーメンとは本来こういう味がするもんなんだ。僕は斜に構えるがあまり家系ラーメン本来の味を忘れていた。
なぜ人は吉村家に並ぶのか。
その答えは一つ 味だ
家系ラーメンの美味さを体感する。ただこのためだけに人々は寒空の中、密をも忘れ並び続けるのだ。
飲食店は味が全てだ。
どれだけ吉村家が悪事を働らこうが、ラーメンの味さえ良ければ人々は吉村家に好評価を下すのだ。
横浜家がどれだけ値下げして、サービスを上げても、味という点で劣れば、吉村家に集客で勝つことはできない。
飲食店にとって一番のサービスとは美味しさなのだ。
僕は飲食店の本質をまざまざと見せつけられたような気がした。
いずれにせよ吉村家が美味しかったのは事実だし、人々から人気を集めているのも事実だ。
僕はこれまでアンチ吉村家を掲げ、「吉村家は大したことない」と語り続けてきたが、認識を変えなければならないだろう。
横浜の武道家と