ドイツ・ケルン 完璧な一日など存在しない 〜サウナが教えてくれたこと〜

無用な心配をしたあげく、何事もなくドイツに到着した僕は次なる旅路への計画を練っていた。

普段であれば、目的地に到着する以前にざっくりとした流れを考えておくはずなのだ。

しかし今回の旅路では「何か入国できない気がするから後でいいや」という具合で僕の怠惰主義と悲観主義が完璧な化学反応を見せてしまい、全て先延ばしになってしまっていた。

ドイツ…ビール、サッカー、FKK、ケルン大聖堂。

冷静に考えれば分かることだが、無学、無教養、無風情の3無の象徴である僕にとって計画を立てることはそれほど複雑なことではない。

良いものを観て、良いものを食って、良いベッドで寝る。

#クウヤルネル

大局的に見ればどんな場所に行っても上記のことは大きく変わらないのだ。

自らの単純さに感謝の念を抱きながら、僕はドイツ旅に関してざっくりとした計画を立てた。

1日目 デュッセルドルフ (ライン川見たい)

2日目 ドルトムント(サッカー博物館行きたい)

3日目 ケルン (ケルン大聖堂見たい)

4、5日目 フランクフルト (フランクフルト食べたい&振りたい)

6日目 ケルンからロンドンへ移動

+どっかでサウナも行きたい、ビール&ソーセージも満喫したい。

地図

1日1行の大雑把な計画ではあるが、僕はHIなんとかでもJTなんとかでもないただのはいぐ〜なので現段階ではこの程度の計画で十分だ。

そしてこれらの計画はある瞬間までほぼ完璧に機能していた。

ある瞬間までは

2021/9/8

デュッセルドルフ→ドルトムントと安定した旅路を終えた僕はケルン大聖堂を体感するためにケルンを訪れた。

安定旅路の継続は僕のアイデアにも大きな影響を及ぼす。

ケルンに到着し、ホテルのベッドでゴロゴロしていると、今日という一日を楽しく平和に過ごすためのアイデアがどこからともなく僕の脳裏に浮かび上がってきたのだ。

15:30 現在

16: 00 昼食

16: 30 ケルン大聖堂見る

18: 00  サウナで一汗

19: 30  ビールとソーセージで晩酌

20: 30  夜景鑑賞

やばい 完璧な一日だ。

ざっくり計画主義の僕がこんな完璧な一日を送って良いのか。

予定調和を愛して良いのか

いや

思いつきでばかり行動してきた僕でもたまにはこんな日があっても良いんじゃないか。

自らの計画力向上に複雑な心境を抱きつつも、せっかくの美しい計画を台無しにする必要もない。

今後の美しい未来に心を踊らせながら僕はホテルを出発した。

計画どおりに例のごとくケバブ屋で昼食をとり、ケルン大聖堂に向かった。

ケルン中央駅の正面にそびえ立つケルン大聖堂は今後”大聖堂”と名のつく観光地を見ても全てショボく感じてしまうのでないかと思うほど、巨大で荘厳な作りであった。

自らの姿が写った記念写真撮影が若干難航したものの、予定どおり30分ほどケルン大聖堂の圧巻の景色を満喫した。

この日は日差しが強く夏の兆しが残る一日であった。

3無らしく写真撮影に躍起になっていた僕は自らがすっかり汗ばんでいることに気づいた。

さあ 次はサウナだ。

僕はオランダでの経験からサウナに対して良い印象を抱いていた。

聞くところによるとドイツもオランダと同じ男女混浴着衣無しのサウナ文化を持っているらしい。

サウナで身も心もととのい、ビールを飲めば最高の一日だなあ。

僕はリサーチしていたサウナに向かいながらそんな妄想にふけていた。

当時行こうとしていたサウナ

ケルン大聖堂から歩くこと15分。ついにお目当てのサウナに到着した。

さあととのいだ。

僕は意気揚々とサウナの門をくぐった。

僕 「one person 」

店員 「vaccinated?」

僕 「no」

店員 「sorry」

僕 「pcr test ok?」

店員 「sorry」

どうやらサウナの入場にはワクチンの証明書が必要とのことだった。

ゆるゆるの入国審査にすっかり油断していた僕は思わぬ洗礼を浴び、さっさと追い返されてしまった。

とはいえ今日の完璧な一日はサウナ無しでは完成できない。

まだ夕食には早すぎるし、このサウナ気分を満たさずにはいられない。

全てのサウナがここまで厳しいとは限らないだろう。

ドイツは店によってコロナ対策が厳しい店とゆるゆるな店がはっきりと分かれていることは3日間の滞在で理解していた。

僕はすぐさま別のサウナを探した。 

流石はサウナ地帯ヨーロッパ。ここの他にも多くのサウナがあることが分かった。

僕はその中でも最も近くにあったphoenix saunaへの訪問を決めた。

サウナ! プール! ととのい!

僕のサウナ浴は限界まで高まっていた。

入店拒否サウナからphoenix saunaまでは歩いて15分ほどあったが、士気の高まりにより遠さを感じることもなくあっという間に到着した。

しかしphoenix saunaもまた先ほどのサウナと同じようにワクチン証明書の提示など厳しい対策を施していることが入口の張り紙で分かった

唯一違ったのはpcr検査結果でもOKとしていた点だ。

僕は1週間前に日本で受けたpcr検査の結果を持っている。

サウナに飢えていた僕はダメを承知で1週間前の検査結果を持って店に入った。

店員は先ほどと同様に証明書の有無を問いかけた。

僕は自信満々に1週間前の陰性証明書を掲げ、医者のサインがあるだとか権威性のある要素を適当にアピールした。

すると店員も納得した様子で頷き、僕の入店を許可した。

やっとサウナに入れる。

やはり今日は完璧な一日なんだ。

店員からタオルを受け取った僕は身も心も弾ませて更衣室へ向かった。

そこが地獄の入口であることも知らずに。

更衣室は受付から階段を降りた先にあった。

一見 何の変哲もないロッカーであったが、後で振り返ると妙に薄暗い雰囲気があったと感じる。

だがしかし当時の僕はそんな違和感に気づくこともなく、サウナを楽しめる喜びに浸り続けていた。

足早に着換えを済ませた僕はシャワールームへ入った。

シャワールームは欧米らしく数枚の仕切りがあるだけの開放的な作りをしていた。

僕はここで最初の違和感を覚えることになる。

僕が訪れた際には既に何人かの漢がサウナ内をうろついていた。

それ自体はどのサウナでも当たり前のように見られる光景である。

しかしこのサウナが違っていたのはどの漢たちも妙に張り詰めた雰囲気をまとっていることである。

普通のサウナの漢たちのような開放感溢れる雰囲気ではなく抑圧された何かの行き場を探すような独特な雰囲気を醸し出しているのだ。

サウナってこんな緊張する場所だったけ。

僕はサウナ内の妙な緊迫感に底知れぬ違和感を覚えつつ、ひたすらにシャワーを浴びた。

その違和感はすぐに明確な現実として登場することになる。

シャワールームを出るとサウナには全くもってそぐわない欲望を滾らせるネオンサインが煌めくスチームサウナがあった。

ああ そうだったのか

僕の旅路が安定で終わる訳ないよな。

妙にギラつく漢たち。ピンクサロンでしか見たことのないようなネオン。

僕はこのサウナにまつわる全ての事象を察した。

ただ サウナーたるもの如何なる状況であってもサウナを楽しむべし。

目の前にサウナがあるのに入らない漢をサウナーと呼べるのか?

へっぽこサウナーである僕だがここはサウナーとしての矜持を見せなければならない。

僕はこの先にどんな現実が待っていようとも、いつものように3セットのサウナ浴を完了することを固く誓い、サウナ室の扉を開けた。

サウナ室は灯りの少なさと蒸気で前が見えないほど暗く、迷路のように細長い作りをしていた。

恐怖と好奇心の両方が僕の心臓を大いに震わせていた。

暗闇の中1分ほど歩くと2段ほどのベンチがある小さな小部屋にたどり着いた。

あたり一面に漂う性に飢えた獣の呼吸音。

ここはダメだ。

某道場で鍛えた嗅覚が僕に訴えかけていた。

僕はすぐさま引き返し、部屋へ続く道の途中にあったベンチに座り、サウナを楽しむことに決めた。

それほど熱くはないスチームサウナであったが、普段では考えられないほどの汗が僕の体から噴き出していた。

こんなに緊張感のあるサウナは後にも先にもないだろう。

部屋に続く道の途中にあるベンチに座る僕の前を多くの”サウナー”たちが通過していった。

みな一様にギラギラとした目つきで獲物を見定めるかのように僕を見つめた。

僕は以前某りんに「ギラギラしてる漢のほうがかっこいいよ」と無責任な言葉をかけたことを思い出した。

今なら自信を持ってあの言葉を撤回できる。

見知らぬ人からギラつかれるのはマジで怖いから、ギラつく相手は選べと。

そうして恐怖と緊張に苛まれていると徐々に身も心も限界に達しつつあるように感じた。

僕は水シャワーを浴び、あのネオンライトのない平和そうなジャグジーへ移動した。

ジャグジーで束の間の平和を味わっていると、先ほどギラついていた漢のうちの1人がこちらを見て微笑みながらジャグジーの前を通過していった。

彼はプーチン大統領に似ていたので以後プーチンと呼ぶことにしよう

僕は適当に微笑み返しつつ、僕がサウナに戻るのをプーチンが待っていることを察した。

如何なることがあっても3セットをやりきる。

それが僕の今日の誓いだ。

僕は誓いを思い出し、再び自らを奮い立たせ、サウナ室へ向かった。

そして先ほどと同じベンチに座り、滝のような汗を流した。

僕がサウナに入ってから数分。

入口から人影が見えた。

プーチンだ。

やはり彼はやってきた。

そして予定調和といわんばかりに僕の隣に座った。

ただ僕はまだ2セット目だ。ここで安易に受け渡すと次のセットを楽しむことはできない。

僕はサウナを楽しみにやって来た。そこだけは譲れない。

僕は上下の局所をタオルで頑なに隠し、そうした気はないことを強く主張した。

僕の主張が伝わったのかプーチンも隣に座っただけで、これといった動きを見せることは無かった。

こうして2人隣り合って熱さに耐えること10分ほど

僕の2セット目は終了した。

2セット目の段階で心身ともにかなりの疲労を感じていた僕だったが、ジャグジーで体勢を整え、最後の戦場へ向かった。

これまでと同様に中間地点のベンチに座るとこれまた同様にプーチンが僕の隣に座った。

僕はタオルを開放した。

良かったなプーチン。僕は期待されると断れない性格なんだ。

僕がタオルを開放するとプーチンはベルリンの壁が開放された際の東ドイツ市民のように、即座に僕の体になだれ込んだ。

そしてKGB仕込みのテクニックで僕の体を端から端まで触れていった。

当初は違和感しかなかった僕であったが、元々漢の指は嫌いじゃない。

サウナ中にマッサージをしてもらっているような感覚は決して悪いものではなかった。

これもサウナの楽しみ方なのかもしれない。

しかし彼は次第に僕の大切な商売道具にまで手を伸ばし始めた。

彼が次のステップに進みたいのは明確だった。

ごめんな プーチン 僕はもう昔の過激な遊びばかり追い求める僕じゃないんだ。強引なやり方はやめようぜ

僕はそう心の中でつぶやき、体を起こして彼の頬に唇を当て、その場を後にした。

彼の落胆した様子が遠くに見えた。

ps 夜のケルン大聖堂の景色は感動的な美しさでした。

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