ただ空を飛びたかったんだ

僕は9月1日~3日まで関西を旅行した。

腐るほど訪れた気のする関西へ大学4年にもなって何故旅行したか。

それはひとえに「空を飛ぶため」に他ならなかった。

8月はウメハラの月だった。

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彼は溢れるバイタリティーを放出し、暴虐の限りを尽くしていた。

このご時世、思うように活動できず苦しむ人もいる中、暴虐無慈に人生謳歌ハラスメントを行うウメハラは明らかに全世界の脅威となっていた。

そんな彼が唯一取り残した活動があった。

スカイダイビング。

目には目を 歯には歯を。

僕たちがスカイダイビングを先に決行し、ウメハラに人生謳歌ハラスメントの苦しみを味あわせる。

僕は時同じくウメハラの活動に狂気を覚えたタカオカアラタと共に、ウメハラ討伐スカイダイビング隊を結成した。

僕たちは早速国内のスカイダイビングスポットをしらみ潰しに探し、都内近郊にキャンセル待ちスポットを見つけ、すぐさま予約を試みた。

しかしこれはウメハラの罠であった。

数日後、僕たちが予約を入れようとしたスポットから「予約は出来ない」という旨の連絡があった。

恐るべしウメハラ。

彼は僕たちに先を越されないように、都内近郊の全てのスカイダイビングスポットに対して、海谷という者が来た際に「予約ができない」と伝えるようにと指示を出していたのだろう。

僕たちはウメハラのハラスメントに懸ける思いをまざまざと見せつけられた。

意気消沈するなか、タカオカアラタがこんな提案をした。

「兵庫にできるとこありますよ」

兵庫。かのタカオカアラタが産み落とされた忌々しき地。

なぜいまさら兵庫を訪れなくてはならないのか。

しかし悩む暇はなかった。

この瞬間にもウメハラは次なるハラスメントへの策略を考えている。

関東に海谷スカイダイビング禁止網を張ったウメハラも流石に関西に目を向けてはいないだろう。

こうして僕は兵庫行きを決めた。

兵庫といってもタカオカアラタの推したスカイダイビングスポットは人里離れた山奥にある。

ぬくぬくと実家の愛を享受し尽くすタカオカアラタはまだしも、実家の愛から離れる僕にとって兵庫の山奥はあまりにも遠い。

僕は前日に姫路の宿を取り、万全の準備をしてスカイダイビングに望むことにした。

9月1日 天気 快晴

僕は兵庫へ旅立った。

思えば関東圏から飛び出すのは半年ぶりだ。

18切符名物静岡地獄ですら今回はどこか楽しく感じた。

電車を抜ければ大空が待っている。

見渡す限りの青空。ジェットコースターでは決して味わうことのできない永遠と続く浮遊感。

僕は車内で何度もスカイダイビングのイメージを膨らませた。

「中文 空を飛ぶ」

そんなストーリーが出来た暁にはウメハラは嫉妬と羨望の眼差しを向けるに違いない。

出発から7時間、僕はついに米原に降り立ち新快速に乗り込んだ。

関西へ近づくに連れ、さらに気分が高揚していくのが自分でも分かった。

国内旅行も悪くないな。

そんな時ふと携帯を見るとタカオカアラタからの着用があった。

嫌な予感がした。

僕は恐る恐る用件を聞いた。

体の力が一瞬で抜けた。

これまでの高揚は何だったのか。

自らの人生計画を達成するためなら、天気を変えることをも厭わないウメハラに畏怖の念を抱いた。

恐ろしい。ただただ恐ろしい。

僕たちのスカイダイビング計画は消えた。

その時残されたのは既に予約を取った姫路のホテルだけだった。

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